怠惰先輩の憂鬱③
「見ててくださいよ、レイジ先輩」
振り返りながらジェーンは目をまるくするレイジを仰ぎ見る。そして両手を軽く広げ、ゆっくりと持ち上げた。
その動作に呼応して魔力の白い閃光がせつな瞬く。地面からまるで起き上がるかのように、四面の壁が床に乗ったジェーンを押し上げた。
一階の扉を、木に見立てたプラスチックと鉄で創りながら、ジェーンは外に向かって手を振る。すると鉄製の棒がジグザグと成長し、降り注ぐ鉄板を受けとめて階段になった。
ジェーンは階段に飛び移り、いっしょに伸び上がりながら二階部分の壁を創造していく。角は一切なく表面はなめらかに仕上げ、大きな丸窓の周りに小さな丸窓を散りばめる。
肝は屋根だ。
ジェーンは網膜に焼きついた心踊る光景を思い描く。鮮烈でいて、瑞々しい光を帯び、ほっと笑みがほころぶようなやわらかさに、儚さが潜む。
「そして誰もが目を引く美しい青を」
ジェーンは屋根に一本の支柱を立てた。その先端はみるみるふくらんで、はちきれる。
あふれ出した深い青の清流はぷるると震え、貴婦人のスカートのようにふくらみ外壁をそっと包んだ。裾をおしゃまにくるんと巻けば、ブルーベルの屋根の完成だ。
「マジか、これ……園長室じゃねえか」
目を剥き、ブルーベルの家を凝視したまま起きようとしたレイジは、丸太からずり落ちた。
そのまま転がるように駆けてきて、階段を上がりまっ先に屋根を触る。青く陽光を跳ね返す花弁は、レイジが力を込めるままにむにゅりと形を変えた。
「これなにで創った」
「スライムですよ。ビニール加工してあります。耐水性はばっちりです!」
ジェーンはでき映えに満足し、胸を張って答える。
「スライムの屋根、だと。本家より発色がいい。この透明感は普通じゃ出せねえ。なによりスライム独特の弾力性がなんか生々しい。……けど、ダメだなこりゃ」
「なんでです!?」
また嘲笑うように吐き捨てたレイジを、ジェーンはにらみ上げる。
レイジの指が屋根をつまんで引っ張った。すると花弁はどこまでも伸びていく。たわんだところから、ぼたぼたと垂れてしまった。




