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園長室へのお使い③

 ジェーンもとりあえず笑顔で手を振り返す。とたん、男の子はパッと顔を明るくした。


「手ふってくれた!」

「よかったね」


 飛びついてきた子どもに笑いかける母親も、どこかわくわくした様子でジェーンに手を振る。母親にも応えながら会釈し、その場を離れたジェーンの胸はドキドキと踊っていた。


「神話と魔法の世界。そこにいる私はお客さんにとって従業員ってだけじゃなく、物語の登場人物なんだ……!」


 口を覆った手の下で、持ち上がる口角を抑えられない。華やかなガーデンのヒーローとヒロインであるダグラスやプルメリアたち演劇部員に、仲間入りした心地だった。


「わあ。すごい。かわいいおうちがたくさん」


 〈花家はないえの小道〉と書かれた看板に従い道を曲がった先は、色とりどりの花を乗せた家が連なる街並みになっていた。ジェーンも物語に迷い込んだ客の気持ちになって、通りを見渡す。

 大輪のバラやフリルのような桃色のスイートピー、こんもり盛り上がったかすみ草の花束みたいな屋根から、ぷっくりとふくらんだ葉っぱが愛らしい多肉植物の屋根まで、種々様々だ。

 家の外壁はみんな一様にまあるく曲線を描き、ぬくもり感じるクリーム色で統一されていた。窓辺に洗濯物が干されている家もあれば、脚立にじょうろや軍手が置かれ、さっきまで誰かが作業していたような雰囲気の家もある。

 シネレの街灯に見守られたそれらの家々には、客が集まっていた。


「全部お店になってるんだ」


 花をあしらったカップケーキやマカロンのあるカフェ、花模様の品々を取りそろえた雑貨屋、そして本物の花を売るフラワーショップ。どの店もにぎわっている。

 一番人気はフラワーショップだ。こんなに素敵な街並みを見たら、自宅にも花を添えたくなるのもうなずける。


「私も寄ってみたいけど、仕事終わる頃には閉まってるもんなあ」


 ガーデンの定休日は水曜日で、従業員はだいたいその前後に休みが入り、週休二日となっている。狙い目は火曜か木曜だ。


「って、お金ないじゃん」


 ダグラスをまねてひとりツッコミするジェーンの奇行に、気づく客はいない。整備士の制服のほうが先に注目を集め、みんないそいそと道をゆずり遠巻きに見つめていた。

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