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6話 見知らぬ場所③

 王子は金髪を風に遊ばせながらジュリー女王と微笑み合い、今度は原っぱ側の手すりへ近づいた。とたん、観客の女性たちから黄色い悲鳴が上がる。

 私は息を呑んだ。幹から身を乗り出し、目を見開いて王子を見つめる。足は自然と木立から出ていた。観衆の後ろに迫りながらも、視線は船上から離さない。

 歩みは駆け足に変わり、芝を蹴って頬に風を感じるまで時間はかからなかった。その勢いのまま観客の群に挑んでいく。驚き、振り返った拍子にできたわずかな空間を狙って、身をねじ込ませる。

 人々の困惑や文句は、どんどん加速する歌と音楽に塗り潰され、響かない。見上げた先で王子は、リズムに合わせて大きく手を振っていた。

 男女混声のハーモニーが告げる。


――扉のカギは想像力 それだけでいい


 私はついに観衆の最前列に踊り出た。


「おい、あんた」


 押しのけられ、よろめいた男性が私の肩を掴む。振り向かせようとする強い力に抗いながら、私は王子を見上げ想像した。

 船と地上を繋ぐ架け橋を。

 すると私の周りを光が駆けた。それはレンガ道に飛び込んでいくと、四角い形を取りながらみるみる組み上がっていく。甲板に向かって弧を描くそれは、根元から赤茶色に変化してレンガになった。

 どよめく人々が私から身を引く。肩を掴んでいた男性も離れた。

 最後にポフンッと船のへりにレンガの橋が届いた時、船体がわずかに傾いた。私は橋を駆け上がる。踏み出した足からまた光が走り、橋に欄干をつけようとしていたがもう目に留めない。

 乗り込んできた私を、制服を着たダンサーたちが全員ぎょっと見ていた。着ぐるみたちも固まった。音楽と歌声だけがひとり歩きしている。

 帆や旗さえ止まって見える視界の中、私は船室上の王子を見上げた。


「ダグ!」


 髪色はオレンジではないけれど、遠くから見ても王子の背格好は恋人ダグラスと似ていた。そして彼がこちらを向いた時、人より少し広がった耳の形に気づいた。

 船室脇の階段を駆け上がるごとに見えてくる顔の輪郭、鼻の高さ、目の形、どれひとつ間違えるはずがない。この腕に抱いて、飽きることなく見つめてきた。

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