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甘過ぎる夢③

 はい、と手のひらを上に差し出されてつい手を乗せると、彼の大きな手がジェーンを挟む込み、くすぐるように洗いはじめた。


「ダグっ、くすぐったいです!」

「このほうが早く終わるじゃん」


 ずぼらの天才ですね、と皮肉を言ったジェーンにもめげず鼻を高々と上げたダグラスがおかしくて、ふたりでくすくす笑い合う。

 洗ってもらったお返しに、今度はジェーンがダグラスの手に指を這わせた。


「……ダグ。できたらでいいんですけど、ひとつお願いがあります」


 鏡越しに彼を見つめ、ジェーンは迷惑じゃないかしらと悩みながら切り出す。鏡の中のダグラスは、ジェーンの髪にキスするのに忙しそうに「なに?」と短く応えた。


「今度、チョコレートを持ってきてくれませんか。今日、本当はチョコケーキを作りたかったんですけど、チョコを切らしていたんです」

「チョコケーキ! 俺の好きなやつだ。もちろん持ってくるよ。今度でいいのか?」

「はい。もののついででいいんです」

「そんなに遠慮しなくても。欲しいものはいつでも持ってくるよ」

「いえ。いつもダグばかり頼んでしまって悪いですから」

「俺の女王陛下」


 低く、かすれた声が耳に吹き込まれる。その甘いささやきに反して、ジェーンの指を絡め合わせたダグラスの手はきつく握り締められた。


『困った時はお互いさまだろ』


 せつな耳鳴りがして、彼の声が二重に響く。これは夢の中の彼と、現実の彼の声?


「それにきみは、ここから離れられないんだしさ……」


 鏡の中から切なく細められた目に見つめられる。ジェーンは額に鈍い痛みを覚えた。


「どうして、私は――」


 ここを離れられないんですか? つづくはずだった言葉はダグラスの唇に奪われる。重なったぬくもりは目を見張るほどに熱く、身を焦がし、夢だということも忘れて溺れてしまいそう。

 惜しむように唇を離した時、ダグラスの呼吸は早まっていた。怪しくも美しい紫の魔眼に捕まる。


「ごめん。きみの指が気持ちよくて、俺……」


 けれど、目覚めるベッドはいつもひとりきり。冬の空気が鼻先を凍えさせて、あのぬくもりはどこにも見当たらない。

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