夜勤の古株コンビ①
ニコライと呼ばれたその人の声は、静かでありながらよく通る。レイジは場所をゆずるようにして自席に戻った。
それを見送るニコライの目は少し気遣わしげに見えた。
「ああ、お前が今日入った新人か。俺はニコライ。開園当初からいる古株だ」
ジェーンの視線に気づいてニコライは自己紹介し、握手を求める。それに応じながらジェーンは、アナベラの自慢話に熱心に相づちを打っているノーマンを見やった。
「ということは、ノーマンさんと同期なんですね」
「そうだな。もうすぐ来るラルフってやつも入れて、俺ら三人は同期だ。まあ年齢はバラバラだが」
ニコライが言った通り、十分もしないうちにもうひとり男性整備士が出勤してきた。
真冬だというのに汗だくで現れたその人は、アナベラに負けない立派な腹の持ち主だった。髪は赤色で、ワックスで逆立てるように癖をつけている。そして彼は顔半分をマスクで覆っていた。
ラルフの青い目がまるく見開かれて、ジェーンを物珍しそうに映す。
「おいおい、ニコライ。このお嬢ちゃんはまさか新人じゃないよな」
「ロン園長の知らせを聞いてなかったのか。新人のジェーンだ」
マスク越しにあごをさすり、ラルフはなぜか小難しい顔をしている。
自己紹介しろ、とニコライに後頭部をはたかれたラルフは、貼りつけたような笑みを浮かべ、ジェーンから目を逸らした。
「よお、俺はラルフ。ニコライといっしょに夜勤を担当している。だからあんまり会う機会はないと思うが、まあよろしくな」
照れているというよりはよそよそしい態度だった。やはりラルフもジェーンを創造魔法士として認めていないのかもしれない。
ひかえめに差し出された手に握手で短く応えながら、ジェーンは笑みを繕った。
「夜勤はどんな仕事をするんですか」
「客がいるとできないエリアの修繕だ。今は雲の城を直し、へっくしょん!」
突然、ラルフが盛大なくしゃみをして、ジェーンはちょっと心臓が止まるくらい驚いた。
目を赤らめながらラルフは、クリスとノーマンの間にある机からティッシュを三枚も取ってはなをかむ。そういえばあの机にはティッシュ箱がみっつも並んでいた。




