トラブル発生②
拭き掃除の邪魔になるものはあらかじめ移動させた。場所も記憶して、きちんと元通りにした自信がある。アナベラにわざわざ小言の提供をしてやるほど、ジェーンは愚かではない。細心の注意を払った。
そもそもレイジの机は後回しにしたのだ。彼もそれはわかっているはず。業務中に居眠りをしていたのでなければ。
レイジの目はせつな迷った。
「いや。お前も気づかないうちに落としたんだ。そうに違いない! 探せ!」
「どこをですか」
「ゴミ置き場に決まってるだろ! 早くしろ。回収業者が来る前に」
レイジの有無を言わせない剣幕に、ジェーンは思わず周囲へ視線を向けた。しかしクリスもノーマンもすでに机に向かい、自分の仕事をはじめている。その奥でアナベラは頬づえをつき、ジェーンの視線に気づくとにんまり笑った。
めんどうごとに巻き込まれたくない、という空気を肌で感じる。そしてメモ紛失事件はもう、ジェーンひとりの責任になっていた。
「……わかりました。探してみます」
ここで口論をしていてもメモが見つかるわけではない。ジェーンは渋々うなずく。
その時ふと視線を感じて目を向けた。クリスがサッと顔を背け、なにもない壁を見つめる。
「メモは『企画書』と俺の名前が書いてあるからな」
メモの特徴を話すレイジに返事をしながら、ジェーンはクリスの様子を不思議に思った。
「この中から探すの……?」
午前中に訪れた地上にある物置き扉を開けて、愕然とする。ゴミ袋は天井まで高く積み上げられていた。しかもすべてが同じデザインの袋だ。ひと目ではどこから出たゴミかわからない。
混乱しかける頭を振って、ジェーンは一度深く呼吸する。今朝はゴミ山の中腹くらいに積んだはずだ。上から二段目までは捜索対象から除外していい。
まずは手前のゴミ袋から外に出していき、道を作る。中にはひどく重いものや、なにかわからない液体で濡れているものもあった。それに物置きは淀んだ空気が溜まり、時折生臭いにおいが鼻をかすめる。
「なんで私がこんなこと……」
メモ管理の不行き届きはレイジの責任ではないのか。
「誰も手伝ってくれないし……」
せめて失敗の後始末をともにつけてくれたっていいだろう。誰ひとりやってくる気配のない周囲を見回して、ジェーンは奥歯を噛み締める。




