新人の仕事?④
ジェーンの頬はカッと熱くなった。掃除ばかりに気を取られて、魔法の存在をすっかり忘れていた。穴があったら入りたいほどの恥とは、まさにこのことだろう。
しかしそれと同時に、アナベラは単に雑用をさせたわけではないことに気づいた。
ジェーンはパッと顔を上げて声を弾ませる。
「アナベラ部長は掃除を通して私に創造魔法を教えようとしてくれたんですね!」
「は? ……そ、そうだよ。今頃気づいたのか。察しが悪いね」
「ではトイレットペーパーの創り方を教えてください。魔法で生命とその亡骸は創り出せないので、パルプではないんですよね?」
アナベラが空のペーパーホルダーに向けて手をかざした時、舌打ちが聞こえた気がしたがジェーンは気のせいだと流した。
「合成繊維パルプを使うんだ。だがそれだけじゃ吸水性に欠けるから、綿雲繊維と半々で混ぜ合わせる」
アナベラの手を中心に平べったいヘビのような紙と、綿雲がもくもくと創造される。ふたつは織り重なりながらホルダーに向かってひらりと飛び、芯にくるくる巻きつきはじめた。
ロールの直径がおよそ十センチになったところでアナベラは魔法を止めた。ジェーンはできたてのトイレットペーパーに触ってみた。表面は少しもこもこしていて、まるで子ネコの毛並みのようにやわらかい。
「これは創造魔法の初歩中の初歩だからね。こんなこともできないようなら悪いけど、ロン園長に報告するしかない。ウチは養成学校でもリハビリ施設でもないんだ。よちよち歩きのお前に合わせてやる義理なんてこれっぽっちもないんだよ。わかったか、ジェーン。……ジェーン!」
ジェーンは一番奥の個室トイレからひょこりと顔を出した。そして満面の笑みを浮かべ、両手を天井に掲げる。あたりには芯が揺れるカラカラとした音が響き、頭上には七つの滝が巨大な白雲と絡み合って流れていた。
「アナベラ部長! できました。これでいいですか?」
宙を見上げたままアナベラは固まり、黙っている。駆け寄ると口があんぐりと開いて、二重あごが強調されていた。
「アナベラ部長?」
きょとんと首をひねりながら顔を覗き込むと、上司は頭を振って我に返った。




