表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/365

4話 見知らぬ場所①

 思い出そうとするが頭が痛んだ。なんだか恐ろしくなってきて、根っこの元から這い出る。靴ははいていなかった。服はパジャマのように簡素な白いワンピースだけだ。

 鼻腔をひりつかせる乾いた空気が風に運ばれてきて、二の腕を抱き締める。寒い。今は冬らしい。すぐ横の木道を行く人々は、厚手のコートや手袋でしっかりと防寒している。

 なんで私は、夏のような格好なの?

 ふと、老婦人と目が合った。老婦人は目をまるめて私を凝視し、隣にいる犬連れの夫らしき男性の肩を叩いて呼ぶ。私は男性が振り返る前に歩き出した。

 ここに留まってはいられない焦燥と緊張に突き動かされただけで、あてなんかない。

 木道は人が多く、私は場違いな格好が恥ずかしくて並木に隠れるように芝生の上を歩いた。それでも横からぽつぽつと視線を感じる。枯れ葉を転がす風のようなざわめきが私を追いかけてくる。

 次第に息苦しくなってきて、道とは反対に広がる木立の中に飛び込んだ。しばらく落ち葉を蹴立てながら奥へ進めば、ざわめきは遠のく。


「お母さん、また行き止まりだよお」

「あら。じゃあさっきの曲がり角を左だったのね」

「いや、その切り株を見てごらん。ジュリー女王のマークがあるよ」


 親子と思われる会話が流れてきた。父親の声につづいて、少女の大きな歓声が上がる。私は思わず肩が震え、木立の間をにらみながらあとずさった。

 姿は見えないが三人の親子だけではない。林の中にも大勢の人々がいて、風の吹くままに気配が現れては消える。

 私はとにかく人気ひとけのないほうへと急いだ。ひとりになって落ち着きたかった。できれば体温をどんどん奪っていく冷たい土と風から避けられる場所を求めて、目を動かす。


――ここは魔法の庭


 そこへ木々を縫い男性の声が届いた。それは歌声だった。気づけば私の周りをベースの重厚なリズムが囲んでいる。疾走感あふれる旋律は、私の戸惑う足音や逸る息遣い掻き消した。

 林へ逃れても振りきれなかった人々の気配が、ぴたりとやんでいた。

 私は少し大胆に動けるようになり、歌声へ近づいてみた。木立の隙間から広い芝の原っぱが見えてきて、そこにたくさんの人が集まっている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ