359話 Creation magic garden③
「ロナウド。言動が少々目に余りますよ。わたくしの上でそのように物騒なものは消してください。ジュリーを撃ち殺すなんて、本気ではないですよね?」
やさしく諭す言い方だったが、イヴの声には厳しさが帯びていた。その威光に縛りつけられたかのように、ロンはぴくりとも動かず口を引き結んでいる。
光輪を爪で弾きながらゆったりと近づいたイヴが、鼻先をそっと小銃に触れさせる。するとそれは、桃色の花弁となってはらりと散り落ちた。
「……わたくしとアダムの望みは、確かにかわいい人間たちの再興です」
ひと呼吸の間を置き、静かな声で言ったイヴの言葉にジェーンはドキリとした。「イヴ!」と肩でアダムが非難がましい声を上げる。
「あなたもお願いしたでしょう、ロナウドに。失った悲しみに堪えられず、再び人を愛でたくて望んだ。わたくしたちではこれが限界だったのです」
そう言いながらイヴは足元の世界に目を巡らせた。
「彼らは、わたくしたちが見てきた人間の模倣です。わたくしたちの想像を超える行動はしない。ジュリーを手にかけようとしたロナウドのようには。ああ、なんて愚かなこと。ですがそこが愛しい」
「イヴさま……」
神狼は堪らずといった様子で体をロンにすりつけた。ロンの肩がわなわなと震え、まるで神の愛に溶かされたように座り込む。
「だけど、ロジャーの思いはそうじゃないんだよね?」
耳元で問いかけられ、ジェーンはハッと振り向いた。黄色い光彩を放つアダムの目が、存外鋭く注がれている。
せつな、ロンの言葉が脳裏を過った。
――そんなことをすれば神は怒り狂い、私たちから魔法を取り上げる!
確かに失望はされるかもしれない。神官は神の贄として未来永劫、魔法を行使させてもらうための供物だ。ロンの考えはあながち間違っていない。
ジェーンの後ろには歴代神官たちの犠牲と、人類の歩んできた幾千の歴史が積み重なっている。
だけど、ダグが導いてくれた。血の色など関係ない。
――この先どんな選択をしようと誰と歩もうとも、愛してる。
ジェーンはディノの顔を振り返り見た。




