346話 扉を開けて⑥
「聖騎士ダグラス、恐れ多くも神鳥アダム様の寵愛を受けし神官様に永久の誓いを申し奉る」
ダグが歌うように口ずさんだのは、婚礼の宣誓だった。
「健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、あなた様を敬い、慰め、たとえ死がふたりを分かつとも、この魂に懸けて永久に愛し笑顔を願いつづけることを誓う。これに異論なくば、我が口づけを黙して受け入れ給え」
ヒビ割れた彼の唇が厳かに手の甲に触れる様を、ジェーンは涙の膜越しにひたと見つめていた。
そっと顔を上げ、照れくさそうにはにかむダグに堪らなくなり、もう震えるばかりの手で彼の手を握り返そうとする。
「ダグ、私からも――」
しかし、その先の言葉は唇に置かれた冷たい指に遮られた。
「きみは生きて、幸せになるんだ」
「え……」
「きみが幸せそうに笑って、生きていてくれることが俺の幸せだ。この先どんな選択をしようと誰と歩もうと、愛してる。だからきみは、必ず幸せになることを誓ってくれる?」
ジェーンは首を横に振り、繋いだダグの手にすがった。
「あなた以外にっ、誰と歩めと言うんです! 私にはもう……!」
「いるだろ。新しい友だち。新しい家族」
ぼやけた視界にはっきりと映し出された。キッチンで夕飯を作るカレンとルーク、食卓を用意するプルメリアとダグラス、そこへ遅れてやって来るディノ。みんなが振り返って微笑みかける。
おかえり、と。
「彼らは……“ジェーン”の家族です」
「そう? 本当はもうわかってるんだろ。血の色なんて関係ないって」
ルームメイトたちの笑顔を思い浮かべた時、胸にぽっとぬくもりが灯った。まるでダグに抱き締めてもらった時のように、ジェーンを安堵が包み込む。
整備士の仲間たちも、演劇部や園芸部のみんなも、母や夫や子どもたち、そしてお客さんたちのために精一杯働いて、食べて飲んで、傷つき笑う。尊い命だ。
「ロナウドが近づいてる! 起きるんだ! 起きて自分の名前を呼んで!」
アダムが慌ただしく飛び回りはじめる。青い翼が巻き起こした風に、ジェーンは体が引き寄せられる感覚がした。思わずダグにしがみつく。




