342話 扉を開けて②
「どうして俺を信じてくれないんだ? こんなに愛してるのに。俺はきみしかいらないのに。でもきみは違うの?」
ジェーンは掴まれた手からそっと力を抜いた。本当のことはなにひとつわからなくて、今も迷いは消えない。けれどこの手を振り払えないことだけは、はっきりとしている自分に笑みがこぼれる。
「ダグのこと信じてますよ。私のこと忘れちゃったって、他の女の子に目移りしていたって大好きです。夢の中のあなたと、カボチャ頭のあなたと、黄色い血を流していたあなた……。どれもが本当に見えて、もう、頭はぐちゃぐちゃです」
「だったら俺のことだけを信じて! きみをもう二度と傷つけたくないんだ! 閉じ込めるのはきみを守るためだってわかって欲しい……!」
「ありがとうございます。でも」
板の間からこぼれる光を、ジェーンはしかと目に映した。
「失ったものは大切なものだった。だから辛くて苦しくて、怖いんです。私の大切なものは、扉の向こうにありますね?」
繋がった手がひくりと震える。振り返るとダグはまるで、置き去りにされたように心細い目をしていた。
ジェーンはにこりと微笑み、ダグの手を握り返す。
「いっしょに、来てくれませんか。あなたがいてくれるととても心強いんです」
ダグはうつむいてしまった。じっと待っていると、ためらいがちにシーツを掻いてベッドから立ち上がる。
隣に来た彼はふてくされ顔だった。けれど、手だけは熱くジェーンを包んで離さない。
ふたりはそのまま扉に近づいた。すると外の音が響いてくる。なにか大きな物が落ちる音。地響き。大気を揺るがす破裂音。そしてそこに人の雄叫びのような声が混じっている。
にわかに冷たくなってきた手を、ジェーンは扉にかざした。
「忘れないで」
その時ぎゅうと手を握り込まれる。しかし耳に届いたのはダグの声ではなく、幼い男の子のものだった。
「僕のことも。思い出してね」
ひどく寂しげな声が耳をかすめた時、手の中の感触も溶けていった。ジェーンは振り返らなかった。大きく息を吸い込むと同時に、魔力を練り上げ扉へと放つ。
それは一瞬にして薄氷に変わり、轟音に耐えられず砕け散った。
ジェーンは衝動に駆られて外へ飛び出す。




