ディノとカボチャ男④
寂しいからとか、同族だからとか、そんなものは関係ない。
透き通るような肌、薄紅色の艶やかな唇、爪、やわらかな白銀の髪、すべてが夢のように美しかった。
「好きだ、ジェーン」
名前を口にしただけで自然と笑みがこぼれる。ひと目見た時から心に宿った熱は、今もまだこんなにぽかぽかと照らしてくれている。
「隙間をあけたらあとは、柔軟加工してこじ開けたほうが早い。だいじょうぶだ。だいじょうぶ……」
大きく深呼吸して壁の前に立つ。消すだけならガラス戸のほうが容易だが、おそらく下りられる足場はない。だからロンはバルコニー側をガラス戸にした。そういう男だ。
呼吸をくり返すごとに、高めた魔力が足元から光となって舞い立ち風を喚ぶ。はためく髪に頬をなでられながら、ディノは超高密度壁に向かって一気に創造魔法を放った。
その瞬間、激しい吐き気がのどを焼いた。堪える間もなく、胃の中のものを床にぶちまけて、ひざをつく。衝動を抑えるよりも、途切れそうになった魔力を持ち直すのが先決だった。
しかし巡る魔力を体が拒否して、生命活動を阻害してでも止めようとしてくる。過去のトラウマによる創造魔法への拒絶反応だった。
「はあっ、はあ……! まだぐずる気か……。もうそんなこと言ってられねえだろ……!」
再び込み上げてきたものを吐き出すと、ほとんど胃液だった。もうなにもないというのに、吐けと命じてくる体を引きずって、壁に近づく。
下からかすかに水蒸気が立ち昇っていた。だがおかしい。物質変化速度が異様に遅い。いくら相手が宇宙起源時代の物質でも、体に負荷を抱えていようとも、指が通る隙間くらい一瞬で創れる自負がディノにはあった。
予想より壁がぶ厚いのか?
そう思ってディノは、胸をあえがせながらさらに一段階魔力を上げる。その瞬間、全身の倦怠感がビリビリと質量を肥大化させた。
「ぐっ、う……! これは……っ」
自分の体を支えることもできず、床に横たわる。魔力に集中しようとすればするほど、電流にも似たしびれが体を裂いた。
「源樹イヴの、禁断の果実……っ。使ったのか、あの時……!」




