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ディノとカボチャ男③

 薄気味悪さを覚え、ディノはベッドから抜け出した。ところが、立ち上がったとたんに重い倦怠感に見舞われてよろめく。

 勢いよくベッドに沈んだ。まるで誰かの手に頭や手足を押さえつけられているかのように重く、力が入らない。

 項垂れた拍子に首筋がひきつった。そこに手をやると、ばんそうこうのようなつるりとした感触がする。ディノはハッと震えた。


「そうだ。ロンと食事した帰り、首になにか刺されて急に眠くなった……。あれは睡眠薬……? 俺は眠らされてここに……! 今日は何日だ!? ジェーンは逃げられたのか!?」


 すばやく部屋を見回すが、扉も窓もなく、光はバルコニーと繋がるガラス戸から差している。

 重い体を引きずってディノは夕陽に輝くガラス戸へ飛びつく。しかしその扉には取手も蝶番ちょうつがいも、引き開けるための溝もなかった。上部に通気用の回転小窓がついているが、到底通れる大きさではない。

 ディノはガラスを叩いた。助走をつけ体当たりした。しかし強化ガラスなのか、ヒビひとつ入らない。ベッドの支柱は鉄製で折れる代物ではなかった。

 その時、小窓からガーデンの放送が聞こえてきた。


『まもなく、芝の原っぱステージにて、ハロウィンイベントのグランドフィナーレショーがはじまります。歌とダンス、そして魔法のショーです。ぜひみなさんでお楽しみください。なお、特別観覧席のチケットは――』

「グランドフィナーレ! 今ならまだ間に合う……!」


 ディノは外の様子に目を凝らした。あたりは一面雲のレンガ道だ。そして正面に虹の橋が見え、 まゆ型の〈ウォーターレイ〉、円を描く〈ミルキーウェイ〉、中央の花畑に囲まれた池の水面が黄金にキラキラ輝く景色が一望できる。

 この位置と高さは間違いない。雲の城の塔だ。


「ここは宿泊施設の一室か。扉が必ずあるはずだが、改創して塞がれている」


 壁をよくよく確かめてみると、やわらかそうな見た目に反してとても頑強だった。ディノは目を閉じて壁に触れ、指先に意識を集中させる。


「……クォーク・グルーオンプラズマの壁か。手間かけさせる」


 壁から離した手が震えていた。強がってみても、すくむ心は誤魔化されてくれない。だけどやるしかない。脳裏に眠りつづけるジェーンの姿がよみがえる。

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