ディノとカボチャ男②
俺の質問に答えろよ。
「せっかちだなあ。そんなんじゃ女の子に嫌われるぞ?」
くつくつと笑うその声に聞き覚えがある。だけど誰だったか探ろうとすると、頭はまっ白になって思い出せない。
男は立ち上がった。マントと白いスカーフが風になびく。格好はどう見てもハロウィンの仮装だ。
ふと、男が手を掲げる。次の瞬間俺は息を呑んだ。魔力の光が急速に男の手のひらに集まり、それは縦と横に渦を巻きながら形を成していく。
創造魔法だ。しかも形成速度はジェーン並みに速い。
黄色の短い柄を握り、赤いじゃばらつきのヘッドを突きつけて、男は詰め寄る。
ってこれ、ピコピコハンマーか?
「そ。ちょっとやそっとじゃ起きそうにないから、意識を直接ぶっ叩きに来たんだ。お前が寝てる場合じゃないだろ。なあ、王子サマ」
男はピコピコハンマーを振りかぶって、大きく腕をなぎ払った。正確に米神を捉えた打撃は、俺の体を吹き飛ばし視界がぶれる。
いや、思い出の中の“俺”はなにごともなかったように佇んでいた。しかし俺の意識は体から離れて、空に吸い込まれていく。
「うちのはお姫様っていうより女王様だけど、よろしくな」
まっ暗に落ちくぼんだカボチャの目が俺を見上げて、のんきに手を振っていた。
「……ん。あの男……」
目を開けると小麦色の光に照らされた壁が見えた。さっきまで誰かといて話をしていたような気がして、ディノはぼんやりと記憶を辿る。
だけどその光景は追いかけるほど白く褪せて、霧のように指の間をすり抜けた。
「なんだったんだ。俺はなにして……」
いつものように窓に目を向けた。レースカーテン越しに見えるジェーンの部屋の窓を眺めながら、眠気が去るのを待とうとした。
しかし壁には窓がなかった。自室のそれと違う、もこもこと波打つレンガの壁面を思わず凝視する。床も木目調ではない。天井は、と顔を上げてディノは目を疑った。
「なんだ……これ……」
そこには四本の柱に支えられた屋根があった。ベッドの周りは緑のカーテンと白のレースで囲まれている。まるで貴族か王族の寝室だ。
「くそっ。ここはどこだ……!」




