ルームシェア生活の行く末①
プルメリアに口元についたハンバーグのソースを拭われて、ダグラスは照れくさそうに笑った。お礼を言われてプルメリアもやわらかく微笑む。
ずっとつづくと思っていた。ダグラスを取り合う恋敵になったって、プルメリアと衝突することはなかったのだ。むしろ彼女とは、恋の喜びも苦しみも分かち合う戦友だ。
カレンもルークも、どちらかに肩入れすることなく静かに見守っていてくれた。何度も困惑を与えてしまったダグラスも、今ではなにごともなかったように暖かく接してくれる。
彼らはかけ替えのない友人であり、仕事の仲間であり、ジェーンの中でいつしか家族のような存在になっていた。そばにいるのに理由はいらない。すれ違うことがあっても、離れるなんて考えも浮かばない。
だからディノとだって、ずっといっしょだ。ひとつ屋根の下、苦楽をともにする彼らは運命共同体だから。
だけど、そんなのは甘い幻想だった。
「あら。ジェーン、全然食べてないじゃない? ……ジェーン?」
カレンに肩を揺すられて我に返る。顔を上げるとルームメイトたちは食事の手を止めて、ジェーンを見つめていた。
「なにがあった」
向かい席のディノが眉をひそめた。疑問を口にしながら、その声は確信を抱いているかのように強く鋭い。
「あの、えっと……」
とっさに誤魔化す言葉も思いつかず、食卓には流せない空気が漂う。
「ジェーン。困ってることがあるなら、ちゃんと話して」
ふいに、プルメリアが怒気をはらんだ声を上げた。しかし彼女の表情は痛ましくくしゃりと歪み、不安そうな眼差しをしている。
ジェーンはハタと思い出した。アナベラに解雇通達された時も黙っていて、ルームメイトたちに心配をかけたのだった。
ひとりで抱え込むのは、彼らの親愛を踏みにじる。なにより、ジェーンひとりではどうしたらいいのかわからなかった。
「実は今日、ロン園長に養子にならないかと提案されました」
「養子ってマジっスか!?」
ルークがイスを蹴りながら立ち上がる。彼の視線がジェーンからディノに移ったのがわかり、ジェーンは慌てて下を向いた。
養子、ルームシェア生活の終わり。そのことばかりに気を取られて、ロンと親子になったらディノは義兄弟になることを失念していた。




