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ロンの提案③

 ぽんっと肩を叩くレイジと手を振るクリスを、ジェーンも笑顔で見送る。

 しかし内心は少し緊張していた。園長自らがわざわざ話なんて、つい思考が悪いほうへ流れる。最近やらかしたことは、なにもなかったはずだけど……。


「僕はずっときみに、謝らなければならないと思っていたんだ」


 組んだ手に視線を落とし、歯切れ悪くロンがそう切り出したのは、ふたりの皿がからになってからだった。


「きみに両親の手がかりや、なにか情報を掴んだかと尋ねられる度、僕は自分の無力さに打ちひしがれたよ……。きみと出会ってもうすぐ一年が経とうとしているのに、いい知らせをひとつも持ってきてあげられない。本当にごめんね……」

「そんな。ロン園長が謝られることではありません。もうすでに十分過ぎるほどよくして頂いています。これ以上望むなんて、ばちが当たるくらいです……」


 ロンをかばう言葉にウソはなかったが、ジェーンは落胆にも似た複雑な思いを止められなかった。これだけ長い間なんの情報も掴めないとなると、いよいよ目を背けていた可能性と向き合わなければならない。

 それは、自分が家族から見放されているということだ。いなくなった娘を両親が捜していないのなら、警察に捜索願いが出されていないこともうなずける。

 あるいは、元より天涯孤独の身だったか。

 ジェーンの中に両親への特別な思いは残っていない。しかしその存在は自分を知り、ダグラスとの思い出を確かめる希望だった。


「……もう、いいんですよ。私には素晴らしい友人と同僚、そしてやりがいのある仕事があります。それだけで……」


 とたんに怖くなり、言葉がのど奥で詰まる。

 過去を捨て、今を取る。それはダグラスと恋人だった自分には戻らないということだ。いや、戻れない。なにもかも失った今の自分は、過去の自分とはきっとなにかもが違う。

 “ジェーン”という人格を受け入れたら、過去の自分は死ぬ。

 ダグラスが愛してくれた“私”は、“ジェーン”に塗り潰される。

 知らず知らず強張っていた肩に触れられて、ジェーンはびくりと顔を上げた。


「せめてもの償いではないけれど、きみの不安を少しでも軽くさせてくれないかな」

「ど、いうことですか」

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