ロンの提案①
十月二十八日。
ハロウィンショーのグランドフィナーレがいよいよ明々後日に迫っている。ジェーンはクリスとレイジといっしょに、食堂に向かって従業員通路を歩いていた。
近頃のガーデンは地上も地下も妙に浮き足立っている。
「ねえねえ、衣装進んでる?」
「今夜にはばっちり! 楽しみだね!」
また聞こえてきた女性販売部員の楽しげな会話に、ジェーンは首をかしげた。
「最近、衣装がどうとかよく耳にするんですけど、ショーの話ですか?」
するとレイジとクリスは目をまるめて立ち止まる。レイジは額に手をやり眉を下げた。
「あちゃあ。ジェーンは知らなかったか」
「ハロウィンパーティーの話だよ。毎年、ロン園長がハロウィンの日に主催してくれるんだ」
クリスの説明にうなずきつつ、意外に思う。そういった大々的なパーティーはたいてい、年末におこなわれるものじゃないだろうか。
「ロン園長はハロウィンが好きなんですか?」
「いやまあ、嫌いじゃねえだろうけど。ガーデン的にはハロウィンが年末みたいなもんなんだよ。冬になるとほら、寒いし花も減るし木は丸坊主だろ。どうしても閑散としちまうんだわ」
「そう。だから閑散期前の書き入れイベント、ハロウィンが僕たちにとって一年の締め括りなんだよ。ロン園長はそこで一年の労をねぎらおうって考えたんだろうね」
レイジとクリスの話を聞きながら、ジェーンはガーデンに来たばかりの頃を思い出していた。
あれは確か一月の末頃だったと思う。記憶障害に新しいルームシェア生活、そして未知の職場。自分のことで手いっぱいだったが、レイジの言う通り冬のガーデンに今ほどの活気はなかった。
「まあジェーンなら、一日もありゃあ衣装創れるし、問題なしだな」
「私も参加していいんですか」
肩にひじをかけ、じゃれついてきたレイジをジェーンはパッと見上げる。
「もちろん、従業員なら誰でもいいんだ。逆に、参加も強制じゃねえし仮装も自由。制服で出るやつも多いぜ。整備部なんかも毎年全員そうだ」
クリスが頬をふくらませてレイジをにらみつけた。これは、本当は仮装したいけど周りが乗ってくれないから恥ずかしくてできない、という無言の抗議か。




