ディノの隠しごと①
けれどもディノがいなかったら、ジェーンはアナベラの嫌がらせに負けて、ガーデンを去っていたかもしれない。ダグラスへの恋心を引きずって、こうして笑い合うなんてできなかったかもしれない。
「あの、帰りにコンビニ寄ってもいいですか?」
ディノにもう一度謝って、それからお礼を言おう。
快くうなずいてくれたダグラスとルークと路面電車を待ちながら、ジェーンはどんなスイーツなら喜んでくれるかなと、ひそかに胸を踊らせた。
シェアハウスに帰宅して、キッチンで夕飯を作っているカレンとプルメリアに声をかけつつ、いったん自室に向かう。玄関にはディノの靴があった。彼も帰宅している。
リビングにいるのかな、と考えながら部屋着に着替えていると、吹き抜けを挟んだ向かいの窓のカーテンが揺れ動いた。
「部屋にいるんだ」
今がチャンス! とジェーンは急いで買い物袋から買ってきたばかりのスイーツを取り出す。
コンビニに行ってみたらなんと、ディノの好きなクレープが売っていた。もちろん買うことに決めたが、チョコやイチゴの定番と並んで季節限定カボチャプリン味がジェーンを苦悩させた。
結局、全種類買ってルークに苦笑いされたけれど後悔はない。クレープ屋のポイントカードを持っているディノだ。きっと小振りのクレープ三つくらいぺろりと食べられる。
「えと、網かごに入れたら見映えいいかな。そうだ、紙ナプキンも添えて……」
廊下に出たとたん、急に見た目が味気ない気がしてきて、ジェーンは歩きながら網かごを創る。そこに白いナプキンを敷いてみたら、なんとかおしゃれになった。
けれども、ディノの部屋の扉が見えてくると、やっぱりもっときちんとした菓子折のほうがいいんじゃないかと、気持ちがしぼんだ。おずおずとノックしようとする手を、食堂で言われた言葉がためらわせる。
――もう俺に構うな。それがお互いのためだ。
もしあの言葉が本心からの拒絶だったら?
網かごをぎゅうと握り締める。
こんなお菓子もお礼も受け取ってもらえるはずがない。ジェーンは扉を見つめ、ゆっくりときびすを返した。
もう一度よく考えてからにしよう。そう思いながら戻ろうとした時、扉から声が上がる。
「いいから構うな! ジェーンにも話すんじゃないぞ!」




