甘くて痛い②
「……くそっ!」
ディノは迷いを振りきり、扉を開けた。とてもじゃないが、そ知らぬ顔して食卓へ戻るなんてできなかった。コンビニに行って遠くから様子を見るだけだ。誰ともなしに言い訳して、駆ける。
すぐ大通りに出た。路面電車の停留所と向かい合うコンビニの前で立ち止まる。店内を覗き込んだが、ジェーンは見当たらない。
「仕方ない」
鉢合わせ覚悟で中に入った。ところが広くはない店内をひと回りしても、白髪のおさげ頭はいない。
まさかすれ違ったか。いや、住宅街に面する道はシェアハウスまで一本だ。見逃すはずがない。
「どこかへ行ったのか……」
コンビニを出てディノは髪を乱雑に掻き上げた。記憶を失って、シェアハウスとクリエイション・マジック・ガーデンしかほとんど知らないジェーンが、一体どこへ行くというのか。見当がつかない。
「図書館? いやもう閉まってる。どこかの店?」
車から降りてきた男性に怪訝な目で見られてはじめて、入り口前に突っ立っていることに気づいた。ディノは一度だけ買い物につき合った時のことを思い出しながら、店の脇へ避ける。
他にジェーンが行きそうな店や場所はなかっただろうか。
その時ふと、視界の端に白いものが映った。ディノは弾かれるように店の裏手へ目を向ける。
従業員用の門扉脇にうずくまる女性がいた。ひざを抱えて、腕の間に顔を埋めている。ふたつに揺ったおさげ髪が、まるで白糸の滝のように流れていた。
駐車場に入ってきた車のヘッドライトに照らされて、絹糸がキラキラきらめく。その光に誘われるように、ディノの足は踏み出していた。
自然と息を殺す。近づけば近づくほど侵しがたい抵抗を感じた。
様子を見るだけじゃなかったのか?
浮かんできた自問に、ああと答える。ずっと見ていたい。子どもの頃から見飽きたことなんてなかった。月明かりから紡がれたような、やわらかい白銀の光を。
靴底から砂利を踏む無粋な音が鳴った。彼女の肩はひくりと震えて、ゆっくりと顔を起こす。まどろんでいたかのようなジェーンの青い目は、ディノを映しても落胆したようには見えなかった。
「ディノ。アイスでも買いにきたんですか」




