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狂うほど愛しい③

「ジェーン……!」


 突然、ダグラスは振り返るなりジェーンの肩を掴んだ。笑おうとして失敗したような、不格好な顔が目の前に迫る。


「俺これからも手がかりを探してみるよ。小・中学校の記憶は思い違いでも、俺たちはたぶんどこかで会ってる。だから心配しないで。俺にできることならなんだって協力するよ」


 手足から、力が抜けていくのをジェーンは他人事のように感じていた。

 断片的に覚えているダグラスとの思い出が、ジェーンに残された数少ない繋がりだった。見知らぬ場所、見知らぬ人々、自分がどこの誰かもわからない中で唯一、ダグラスが希望だった。

 でもダグラスは卒業アルバムの写真を信じて、幼なじみという繋がりは思い違いだと処理してしまったのだ。

 廊下ですれ違っただけでドキドキした胸の高鳴り、目が合った回数を数えていた喜び、卒業式に告白した怖さ、彼がうなずいた瞬間に感じた世界で一番の幸福。

 ジェーンがいまだ手放せないでいる彼との大切な思い出を、ダグラスが信じてくれることはもうけしてない。


「協力、するというなら……っ」


 私と恋人だったことを思い出してください。

 その言葉のあまりにもみじめさに、孤独に、のどが詰まりジェーンはとっさに目を覆う。その瞬間、込み上げてきた熱が手を濡らした。


「ジェ、ジェーン? どうしたんだ。俺また、気に障ること言っちゃったか……?」


 たどたどしい手で肩をさするダグラスの声は弱りきっていて、まるで小さな子どもを相手にするようにやさしかった。

 ジェーンは指の隙間からそっと表情を盗み見る。アメジストの瞳は一心に自分だけに注がれて、不安定に揺れていた。


「好きです」

「え……」


 どこからか「今だ」とささやく声がした。絶対の自信があった。今ならダグラスはこの告白を断らない。

 しかしジェーンは瞬きの間に我に返った。混乱と驚きが押し寄せてくる。自分でもなにを口走っているのかと信じられない。頭がまっ白になりかけた時、くすりと笑い声が落ちてきた。

 ああ、そういうことか。


「ジェーン、あの、今のって……」


 ジェーンは目元に残った熱をぐっと払った。

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