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狂うほど愛しい②

「えっと、嫌、だった……?」

「そんなことありません!」


 思わず飛び出した言葉にジェーン自身が驚いた。慌てて口を押さえ、おそるおそる顔色をうかがう。

 ジェーンと目が合ってダグラスは、夏の日差しにとろけるアイスクリームのように笑った。安堵したかのようなため息は、バニラみたいに甘い。


「やっと目が合った。よかった」

「え……」

「あ、電車来た。行こうか」


 誤魔化すようにうながされ乗り込んだ路面電車は、まだまだ帰宅する乗客たちで混み合っていた。周りを気にして自然と無口になるが、ジェーンにはちょうどよかった。

 あやふやな記憶への不安と、それでもやっぱりダグラスが好きという気持ちがせめぎ合っている。

 落ち込んでいたジェーンを歌とダンスで励ましてくれた。その気遣いとあたたかさに惹かれたのだ。あの瞬間、彼に二度目の恋をした。記憶があいまいでも、この気持ちは確かだ。

 だけど、私はどこから来たの?

 一体、何者なの?

 ダグラスと過ごした昔の記憶ってなに?

 夢の中の“私”は誰?


「ジェーン? 着いたよ」


 ジェーンって誰?

 ひかえめに手首を掴まれてハッとする。見るとダグラスがどこか痛々しい表情をしていた。

 彼はジェーンの手を持ったまま電車から降りる。道路を渡り、コンビニの前を通り過ぎるまで黙って歩く背中に、ジェーンはただついていった。


「ごめん。ジェーンが調子悪いのは、俺のせいだろ」


 閑静な住宅街につづく脇道に入ってすぐ、ダグラスは口を開いた。前を向く彼の表情はうかがい知ることは叶わない。


「無神経なこと言った、ってずっと悔やんでたんだ。ジェーンは記憶を失って混乱してる。誰よりも不安なんだって、わかってるつもりだった。なのに」


 手首に回された指がゆるやかに締めつける。


「余計に不安にさせるようなこと言った。ごめん……」


 彼はまっすぐでやさしい。それを知っているから傷つけられても、きっと何度でも許してしまう。


「……いえ。私こそ、せっかく写真を探して頂いたのに、お礼も言わずすみません。今日もダグに失礼な態度を取ってしまいました。どうか、お母様にもお礼をお伝えください。こんな私によくして頂いて、本当にありがとうございます」

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