ジェーンの失敗③
そこへわらわらと倉庫に入ってきたのは、パレードを終えた演劇部員たちだ。クリスはあっという間にダンサーたちに囲まれて、衣装の説明を求められたり採寸をせがまれたりしている。
中には「過去最高のでき映えだ!」と称賛する声もあり、ジェーンはクリスの耳が赤くなっているのを見つけてくすりと笑った。
「私の衣装はこれかしら」
その時、シャルドネの衣装をなでる手があった。ジェーンはハッとして振り返る。メガネ越しに衣装を検分していた目がジェーンを映して、微笑んだ。
「カレーン! オーディション合格したんですか!?」
思わず飛びついたジェーンを、カレンは抱きとめてウインクしてみせた。
「ばっちりよ」
「カレン先輩改めておめでとうっスううう」
寝起きのゾンビのような声で割り込んできたのはルークだ。どう見ても祝っているとは思えない悲愴な面持ちに、ジェーンは引きつった笑みを浮かべる。
「ど、どうしたんですかルーク」
「いや、ちょっと……」
「自分だけ着ぐるみなのが寂しくなっちゃったんだよね、ルークくんは」
「プルメリアあああ!?」
せっかく飲み込もうとした言葉をプルメリアにスパッと言われ、ルークの悲鳴が響き渡る。役者として顔の見えない着ぐるみ役であることを、ルークも気にしていたようだ。
「まあまあ。部長は来年、敵役増やすかもって言ってたじゃんか。チャンスはあるよ」
顔を覆い、さめざめと泣くまねをするルークの肩をダグラスが励ます。そのやさしい声に、アメジストの瞳に、姿に、ジェーンは胸が詰まってとっさにうつむいてしまった。
なにやってるの。いつも通りに振る舞わなきゃ。
頭ではわかっていても、重苦しい心が顔を上げろという命令を拒む。
「おっ。これってもしかしてロジャー王とジュリー女王の衣装?」
衣装に気づいたダグラスに、ジェーンはうなずき返すのが精一杯だった。
彼は今、どんな目で私を見ているんだろう。思い出をねつ造し、家族の名前なんて個人情報まで知っている女。妄想の激しいストーカーと思われていても仕方ない。
ダグラスの様子は普段と変わらないように思えるが、逃げ出してしまったジェーンには彼の本音がわからなかった。




