衣装創り①
クリスに顔を覗き込まれて、ジェーンは今朝の夢から意識を引き剥がした。けれど、頬が重く感じてうまく笑えない。
クリスにもますます眉をひそめられて、誤魔化すことは諦めた。
「すみません。ちょっと寝不足です」
「ハロウィンショー本番まで一ヶ月切ったのに、衣装まだできてないばかりか手伝わせてすみませんね」
「え。ええ!? 違いますよっ、そんなつもりで言ったんじゃありません……!」
慌てるジェーンを見てクリスはにやりと笑った。
「まあ半分冗談だけどさ。はじめての衣装担当でしかもハロウィンだから、やりたいこといろいろあって決められなかったんだ」
稽古場と隣接する倉庫の床に座り込んだジェーンの前には、クリスが描き溜めたデザイン案の数々が広げられている。
その中からいくつかのテーマを紹介され、ジェーンはどれも素敵だとうなずいたのだが、クリスには強いこだわりがあるらしい。
決まりかけた案を取り下げては、ああでもないこうでもないとつぶやくのをくり返していた。
「私はジャスパー部長の脚本に沿うだけですが、クリスはゼロから考えているんです。大変なのも悩むのも当然ですよ」
「よし。これに決めた!」
「って言ってるそばから!? どれですか」
クリスは散らばったたくさんの紙からひとつをつまみ上げる。それはお菓子と動物をモチーフにしたデザイン案だった。
「シャルドネがドラゴンだから、動物でそろえるといいと思うんだ」
「なるほど。それは名案です! ジャスパー部長もきっと気に入ってくれますよ」
「ありがとう。今から試作を創ってもいい?」
ジェーンは返事の代わりにマネキンを数体創った。
まずは男性ダンサーの衣装だ。クリスはシンプルな白いシャツに、くすんだ青いパンツと黒のブーツを創った。
そしてその上に青いロングコートを滴らせる。その裾はたくさんの支流に分かれた。ひとつひとつがぷっくりと厚みを持ち、フリルを生やしてひだを作る。
フリルは赤紫色で、ジェーンはなにかの触手に見えた。頭をバラのつぼみに見立てたローズカットのようにきらめく帽子が覆い、左右と後ろからまた触手が生えてくる。
「あとは眼帯と、胸元にキャンディの宝石かな。あ、サンゴ型とかいいかも」




