ウソつき④
ハッと我に返り振り向く。慈愛の色を目に湛え、深い理解の微笑みを浮かべたロンがいた。
車は赤信号で停止している。
「やめろ。いいんだ、もう。知らないほうが幸せな真実だってある。ジェーンをそっとしておいてやってくれ」
「ふうん? でもどうやらジェーンくんは、ダグラスくんとケンカでもしたみたいだよ。ボートから降りたジェーンくんは逃げるように走り去ったからね」
いたずらめいたロンの笑みを見てしまった瞬間、まだ強く引きつけられている自分の心に気づかされた。そして、ロンが次になにを言うかわかってしまう。
それはディノの頭に響いた声と同じだ。
「チャンスなんじゃないかい」
「うるさい! あんたは別の目的のために俺とジェーンを利用しようとしてるんだろ。俺は駒になるつもりはない! 諦めてくれ」
「……そうか。きみがそこまで言うなら仕方ないね」
そう言うなりロンは大胆にハンドルを切って、対向車線へと向きを変えた。よろめいたディノは、ロンから物々しい空気を感じ取り凝視する。
「ロン、どこに行く気だ」
「ん? シェアハウスに帰るんだよ。きみとの話はもういいからね」
声も表情も平生と変わらないが、ディノには父が知らない仮面をかぶっているように見えた。
「もういいってなにを企んでる。諦めたわけじゃないだろ!」
「きみのことは諦めたよ、ディノくん。きみがよかったけれど、かわいいひとり息子に嫌われるのは僕も辛い」
「じゃあジェーンは!?」
「彼女には別の男をあてがうことにする。ああ、ダグラスくん以外のね。彼ではダメだ。意味がない」
「別の男だと……! ジェーンをなんだと思ってんだ! ふざけるな! そんなことさせるか!」
息子が激昂し掴みかかることを、父は予想していたのだろう。運転が乱れる前に車を路肩に停め、サイドブレーキをかける。
服を引っ張る乱暴をやめさせることもなく、ロンは微笑んでいた。
「それが嫌だと言うならきみが相手になればいい。僕もそっちのほうがうれしいんだ。全力で応援するよ」
止めに入るよう仕向けられたのだと気づいて、ディノは突き飛ばすように手を離した。
「あんたの企みがわからない以上、話に乗るわけにはいかない」




