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ウソつき①

「きみは一体、誰なんだ」

「え……」


 困惑と憐れみ。パレードに乱入した時と同じ、硬く冷たい眼差しが向けられていた。




 * * *



 シェアハウスの玄関脇に置かれたベンチに腰を下ろし、ディノは知らず知らず長いため息をついていた。

 その横では趣味で世話している花の寄せ植えたちが、夏風に揺れている。白いユーフォルビアの中で可憐に咲くロベリアの青い花弁を見ていると、ジェーンを思い出した。

 お陰で土いじりも手につかない。今頃彼女はダグラスと結ばれて、夕食を楽しむ店でも探しているだろうか。


「これで、よかったんだよな……」


 ジェーンがダグラスと恋人になれば、ロンは自分とくっつけようだなんて無理強いはしなくなるはずだ。彼に、息子の幸せを願う以外の目的がないのであれば。


「俺の幸せ……」


 言葉にしたとたん、自分の隣で笑っているジェーンの姿が浮かぶ。その夢想ごとディノは髪を掻き回し、項垂れた。


「違う。無理やり奪っても意味はない。偽りの気持ちや誰かの代わりなら、いらないんだ。ジェーンの運命の人は、俺じゃない……」


 ディノはしばし祈るように、その言葉を心で唱えつづけた。

 ふと、慌ただしい足音が耳に飛び込んできて顔を起こす。ディノは自分の目を疑った。ダグラスといるはずのジェーンがひとり、玄関扉前の段差につまずき、ひざをついていた。

 まさか。ガーデンは閉園しただろうが、日が沈むにはまだ時間がある。恋人同士になったばかりの大人の男女が帰ってくるには、早過ぎる時間帯だ。

 ジェーンは痛みを堪える吐息をこぼし、すぐそばにいるディノにも気づかず玄関扉へ手をかける。


「待てジェーン!」


 白く細い手首を引き止めていた。弾かれるように振り返った彼女の髪が、かすみ草のように儚く舞い上がる。その向こうに見つけた草間の青い秘実ひじつのような瞳は、濡れていたと思う。

 だけど、込み上げてきた言葉をとっさに飲み込むことができなかった。


「どうしたんだ。ダグラスはいっしょじゃないのか」


 震えた唇を彼女はきつく噛んだ。押さえつけられた感情は行き場を失い、涙となって彼女の目を濡らす。

 バカなことを言ったと後悔しても、一度口にした言葉は取り消せない。

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