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大事な話③

 もう閉園時間も近い。きっとこれが最後のふたりきりの時間だ。ガーデンから一歩出ればダグラスは、みんなのダグラスに戻ってしまう。

 いやだ。もう少しだけ彼をひとり占めしたい。魔法を解きたくない。


「ジェーン」


 固く握り締めた拳をなだめるかのように、やわらかく自分を呼ぶ彼の声がする。ジェーンはハッと目を起こした。

 ボートは写真撮影などに設けられた広場へ逸れて、止まっていた。


「実は大事な話があるんだ。それできみを誘った。その、ディノがいろいろ協力してくれて……」


 ジェーンはふとした拍子に立ち上がり、なにかを叫んでしまいそうな自分を抑えることに必死だった。ドクドクとうるさい心音が、ダグラスがポケットから白い封筒を取り出すのを見ていっそう暴れはじめる。

 緊張に凍える手で口を押さえた。


「これを見て欲しい」


 ダグラスは伏し目がちに封筒を差し出す。デートまで計画して、告白は手紙にしたためたのか。彼のいじらしさに胸が締めつけられる。

 受け取る手が震えた。


「あ、開けますよ」

「うん……」


 しかし封筒の中身は思いがけないものだった。


「それ、前に話した小・中学校の卒業アルバムにあった集合写真だよ。母さんが見つけて送ってくれたんだ」


 あどけない少年少女たちと、子どもと大人の狭間にいるような若者たちの姿が写った、五枚の写真だった。緊張に強張った顔、期待に輝く瞳、澄まし顔。それぞれの思いを秘めて、学生たちはまっすぐに同じ方向を向いている。

 ジェーンは落胆しながらも、無意識に目を走らせていた。今よりずっと幼い顔立ちのダグラスをすぐに見つけた。記憶にある通りだ。

 それなら必ずどこにかに、自分もいるはず。

 だが同じクラスに白髪青目の女の子は見当たらない。ジェーンは夢中で写真を送り、くまなく目を凝らした。小学校の別クラスも、中学校の三クラスも全部。

 一周回ったことにしばし気づかず、何度も写真を送っていた。


「……ダグ、写真はこれで全部ですか」

「やっぱり、いないよな……。俺もジェーンを見つけられなくて……」


 まだ自分の見間違いかと抱いていた希望が、ダグラスの言葉に打ち砕かれる。手から滑り落ちた写真が、ボートの底に散らばった。

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