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大事な話②

 ふと、つぶやいたダグラスを振り返ると、アメジストの瞳がまっすぐ注がれていた。ジェーンはドキリとして意味もなく前髪を整える。


「創造魔法ってすごいよな」

「あ、そっちですか……」


 ジェーンはこっそり肩を落とした。


「俺たち役者はお客さんの想像力を借りて、そういう風に見せることしかできないけど。ジェーンたちは本当に五感で感じさせることができる。神秘的な光、美しい音、おだやかな感触……。ちょっと羨ましいよ。俺にももっと魔力があればいいのになあ」

「いいえ。お客さんたちが見に来ているのは、あくまでダグです。あなたの息遣いや汗や躍動が、脚本に血肉を宿らせる。私の魔法はあなたのためにあります。お客さん全員をダグに見惚れさせるために」


 オールの水を掻く音が止まった。ダグラスにどこかぼんやりとした目で見つめられて、ジェーンはきょとんと首をかしげる。

 すると彼は夢から覚めたように目を瞬かせ、頬に手をやった。


「なんか、ジェーンってさ、お姫様みたいにかわいいけど」


 そのひとことがジェーンの顔を熱くさせたことに気づかず、ダグラスは視線を下げてつづける。


「時々王子様みたいに頼もしいっていうか、かっこいいよな。俺、ちょっとドキッとした」


 にかっと笑ったそれが照れ隠しだと気づいて、ジェーンの胸に切ない愛しさが募る。

 顔をしきりに触るダグラスの右手甲には、赤いアザがある。今の彼はまるで、ジェーンがそこに口づけようとした時に見せる姿だった。

 けれど今はまだ、そのアザに触れられる距離にいない。


「王子ではなく兵士とお思いください。私の王陛下」


 夢の中で交わしたざれごとをまねる。それがジェーンの精一杯だった。


「整備士ってそういう設定なのか?」

「私はそう思ってました。あの制服、最初は魔法使いかと思いましたが、ちょっと兵隊っぽくもありますよね」

「うーん。でも俺とジェーンはもっと近い仲だろ。王陛下は寂しいよ」


 だったら、どんな風に呼び合う仲ですか。そう口にする前に、ダグラスがなにか気づいた顔になってオールを手に取る。

 後ろに後続のボートが迫っていた。水路にすれ違えるほどの幅はなく、景色はどんどん流れていく。ここで大事な話をしてくれるのでは、と期待していたジェーンは焦りを覚えた。

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