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ダグラスと合わせ稽古②

 気づけば肩で息をして、目をさ迷わせていた。まるでここがどこだかわからなくなってしまったようだ。

 けれど、せつなのうちに燃え上がった焦燥はもう通り過ぎている。視界がブレた時、なにか視えた気がしたがそれももう思い出せない。

 気遣わしげに近寄ってきたダグラスに、ジェーンは笑みで繕った。


「すみません。こういうのはじめてで、ちょっと不安になってしまいました。さっきみたいにゆっくりやっていいですか?」

「そうだな。ゆっくり合わせていこう。あ、ついでにセリフも合わせていい?」

「えっ、でも私演技なんてできませんよ」

「だいじょうぶ。言ってくれるだけでいいよ。まあ本番は口パクなんだけど。セリフは録音なんだ」

「そうなんですか! どうして録音にするんです?」

「パフォーマンスを完璧に届けるためと。代役と交替した時、お客さんに違和感を与えないためなんだ。ほら、ジェーンの」


 ダグラスは端に避けておいたジェーン用の台本を持ってきた。

 舞台の流れを把握するために、ジャスパーが用意してくれたものだ。まだすべての台本はないが、脚本でもあるジャスパーは書き上げたところから部員に稽古させている。

 いつもこんな感じだそうだ。本番ギリギリになることも少なくないらしい。

 シャルドネのセリフと待ち構えるダグラスを交互に見やって、ジェーンはこぼれそうになったため息を飲み込んだ。さすがと言うべきか、ダグラスはセリフを暗記しているようで手ぶらだ。

 はじまる前からプロと素人の差を見せつけられて、気後れしないわけがない。


「いくぞ、ジェーン!」

「はあい……」


 どこか楽しげなダグラスに対し、ジェーンはしぶしぶ台本を構えた。


「『なぜだ。どうして俺たちの邪魔をする、シャルドネ! 俺たちはただ平穏に暮らしたいだけだ!』」


 ダグラスが口を開いた瞬間、ジェーンの目の前にいる人はいつもルークとふざけているルームメイトではなかった。まるで彼自身が楽器になったかのように、どこまでも響き、美しく威厳のある声色が場を支配する。

 民を従え、王家の頂点に君臨する者。まさしくロジャー王を目にして、ジェーンはその威風に四肢を絡め取られた。

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