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新舞台担当①

 世間は日毎に今年の最高気温を更新している。源樹イヴは幹をさわやかな水色に染め、葉っぱは瑞々しい緑へと変わった。

 整備士の制服も薄手の夏仕様になったが、堅苦しいデザインはそのままだ。


「ハロウィンは一番の書き入れイベント。仮装とガーデンの植物や装飾が写真映えするからな。何ヵ月準備期間があったって、毎年(しかばね)になってんだ。それにイベント開始は九月一日だぞ。早いどころか遅いくらいだ」


 ババアからの引き継ぎに手間取っちまった、とニコライは悪態をつく。ジェーンはくすくすと笑った。

 ニコライの仕事量は明らかに増えている。けれど疲れどころか、少しこけた彼の頬は前より生気に満ちていた。


「そうなんですか。大変ですねえ。でも楽しそうなイベントです」

「あ? なにのんきに言ってんだ。このハロウィンイベントでやる土日限定のショーを、お前に任せるために呼んだんだぞ」

「……はい!?」

「ガーデンの装飾はノーマンに任せた。だからジェーンは演劇部と協力して衣装や小道具、舞台の創造に入ってくれ。前任者が辞めたせいでちょうど穴があいてんだ」

「え。え。演劇部? 衣装?」

「はじめてだから補佐をひとりつけていいぞ。ラルフ、レイジ、クリス。この中からひとり選――」

「クリス! 絶対にクリスです!」




 ジェーンが食堂と演劇部のある区画を繋ぐ通路で待っていると、濃紺の髪を揺らす小柄な青年が駆けてきた。


「クリス!」

「ジェーン!」


 飛びつくようにして止まったクリスを、ジェーンは笑顔で支える。息を弾ませる彼の手にはしっかりと、スケッチブックが握られていた。


「ジェーン、ありがとう。夢みたいだ、こんな……」


 一度つばを飲み込んでクリスは息をつく。スケッチブックを胸にぎゅっと抱き、ぎこちない笑みを浮かべる。目には堪えきれなかった涙がにじんでいた。


「いえ、私が困るんです。クリスがいないと、ハロウィンの衣装なんて思いつきませんから」

「そ、そうだね! まったく、ジェーンこそ僕に感謝してよ?」


 目元を拭ったクリスは、少年みたいに無邪気な顔して憎まれ口を叩く。それがおかしくて、ジェーンは笑みを転がしながらクリスに礼を言った。


「では、行きましょうか」

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