表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
212/365

古くなった備品交換③

 力なく足を掴んできた手を、ジェーンは静かに見下ろした。


「ジェーン、悪かった。私が勘違いしてしまったんだ……。記憶喪失のお前に……そう、戸惑ったんだよ。私は指導者として、力不足だった……」

「みっともねえ。まだそんな言い訳をして、問題をすげ替えるのか」


 ニコライに舌打ちされて怯えた手を、ジェーンはそっと包み込んだ。


「本当に心を入れ替える気がありますか?」

「おいおい、ジェーン」


 ラルフがこぼしたぼやきは、ジェーンの手に飛びついてきたアナベラの歓声に掻き消された。


「ああっ、もちろん……! これからは良い上司に、いやお前の言う通り部長は下りる。一社員としてゼロからがんばるよ……!」

「そうですか。それを聞いて安心しました」


 ジェーンはにっこり笑いかけ、握り締めてくるアナベラの手をやんわりとほどく。そして厚ぼったい彼女の手をやさしくなでた。


「ああジェーン……! お前だけはわかってくれると思っ――」

「では、がんばってください。新しい職場で」


 わざとアナベラの言葉を遮り、ジェーンは手を離した。安堵の涙だったのか。うるんだ茶色の目がこぼれんばかりに見開く。

 支えを失って床に落ちていくアナベラの手を、ジェーンはもう見ていなかった。


「びっくりさせんな!」


 そう言って笑い、手を叩き、両腕を広げて迎えてくれるたくさんの仲間の元へ、クリスといっしょに飛び込んでいく。あたたかい歓声に包まれながら、ジェーンはディノを振り返っていたずらっぽく笑ってみせた。

 彼は少し驚いたような顔をしたが、やがてやわらかく目を細める。園芸部員や清掃部員がそうしているように、手を叩いて祝福してくれた。


「みんな、聞いて。集まってくれたみんなに、改めて聞いて欲しいお知らせがふたつあるんだ」


 放心したアナベラをロッカー室に向かわせたロンが戻ってきて、みんなの注目を引く。

 まずは、と言いながら懐から白い封筒を取り出した。宛名のところに解雇申請書と書いてある。アナベラがしたためたものだ。

 ロンはそれを掲げて持ち、みんなの前でひと思いに裂いた。


「ジェーンくんの解雇申請は取り消し! 彼女にはこれからもガーデンの整備士として働いてもらうよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ