反旗をひるがえす革命者たち⑤
ノーマンの黒い目がまるく見開かれ、揺れる。彼の動揺を察したアナベラが立ち上がったが、それよりも早くニコライは同期に歩み寄った。
「いつから自分の言葉さえ呑み込むようになったんだよ。自分で自分を見下げるな。魂まで売り渡したわけじゃねえんだろ」
ノーマンの目が吸い寄せられるように持ち上がる。そこには顔色をうかがう薄ら笑いも、怯えた影もない。
不思議なことだが、ジェーンはこの先輩の顔をはじめて見た気がした。
「ノーマン! 余計なことは――」
「うるさい!」
アナベラの指図を遮った声に誰もが目を見張る。それはノーマンものだった。彼は肩で大きく息を吸い拳を握り締め、そしてにやりと笑ってみせた。
「あの解雇通達はアナベラ部長が……、いや、アナベラがジェーンさんを追い出すためにこじつけたものばかりです。ただの私情で正当性なんか微塵もない!」
「よく言ったぞノーマン!」
小粋よく手を叩いて、ラルフがノーマンを引き寄せる。乱雑に頭をなでる同僚の手を、ノーマンはくすぐったそうに嫌がっていた。
「アナベラ。これでも認めねえか」
孤立したアナベラにニコライは向き直った。形勢はこちらへ傾いたと見えるが、女帝のジェーンを映す目にはまだ嫌悪の炎が揺らめいている。
いっそ尊大に拍車をかけ、アナベラはツンと鼻を上向けた。
「お前たちの主張は言いがかりも同然だ。子ネズミ男の証言を得たって、すべての解雇理由をひっくり返すには弱い。言っただろ。証拠を持ってこいと!」
机を叩きつけ目を剥き、アナベラは舐め回すように部下たちをにらみつける。
せつな事務所内に静寂が降りたその時、扉を叩く音が響いた。ありふれたその日常音は、室内に満ちる緊迫した空気とはあまりにもかけ離れていて、整備士たちはしばし反応が遅れる。
ジェーンはいち早く我に返り、返事をしながら扉を開けた。
「ディノ……!」
するとそこにはルームメイトがいた。ディノもジェーンを見て目をまるめ、さらに対立した整備士たちを驚いたように見やる。
「もうやり合ってたのか? ならちょうどいいな」




