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炎症した心②

「風邪ひいたんだって?」

「ちょ、ディノ! どうどうどう!」


 まるで部屋の主がごとく自然に入っていくディノを、ルークが腰を捕まえて下がらせる。

 ようやく見えるようになったダグラスは、トレイを以ていた。なにやら湯気が立つ器が乗ったトレイを掲げてみせて、ダグラスはにかりと笑う。


「チキンスープを作ったんだ。これなら食べられるかなって。食欲ある?」


 言われてみれば、ほのかにブイヨンを芳ばしいにおいが漂ってくる。おいしそう、と思ったところでようやく頭が回りはじめた。

 髪はかしていないし、パジャマ姿だ。おまけになんだか目の周りが腫れぼったい。


「あ、わわわっ。ちょ、ちょっと待ってくださいね。というか一度、ドア閉めてもらえますか……!?」


 きょとんと首をかしげるディノを追いやって、ルークは「ゆっくりでいいっスよ」と笑った顔を扉の向こうに隠した。

 ジェーンは重怠い体を起こし、髪を手ぐしで整える。枕元に置いた青いリボンでひとつに束ね、肩に流した。それからクローゼットからカーディガンを出して羽織り、卓上鏡を覗き込む。

 やっぱり少し目が赤いように見えるが、こればかりは仕方ない。風邪のせいということにしておこう。

 最後に買ったばかりのマスクをつけて、ジェーンは扉を開けた。


「ごめんな。気を使わせて」

「いえ。スープ運んでもらってありがとうございます」


 申し訳なさそうなダグラスの顔を見ただけで、塞ぎ込んでいた気持ちはどこかへいってしまう。我ながら単純なものだ。

 だけど、なんだかうまく笑えない。ダグラスの目を見ることができない。ジェーンは顔を隠すようにきびすを返して、ベッドに戻る。


「ジェーンちゃんとプルメリアが早く元気になるようにって思いながら作ったんスよ!」


 明るく振る舞うルークにうなずき返すだけのことが、とても重苦しかった。

 ひざに乗せたスープをひと口すするも、味がよくわからない。においはおいしそうなのに、細かく刻まれた野菜も肉も紙のようだ。

 食べ物を拒むかのように、のどの炎症がひりつく。

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