解雇通達③
愛しい人の声で突き放された瞬間、ジェーンは目がくらんでひざから崩れた。
「ジェーン!? おい、しっかりしろ!」
血相を変えてレイジがしゃがみ込み、肩を支えてくれる。その力強い腕にジェーンは震える手ですがった。
「私じゃないです……私はやってません。レイジさん、信じてください……!」
訴えはのど奥から込み上げてきた咳に妨げられた。気道がなにかに塞がれているかのように苦しくて、息をするだけでヒリヒリと痛む。
そこへ額に触れたのはクリスの手だった。
「熱い。ジェーン熱があるよ! 救護室に行かなくちゃ……!」
「まっ、てください。私はやってないと、証明、しなければ」
「んなことはわかってるよ! でもまずは救護室だ。乗れ!」
背中を差し出すレイジへと、クリスの手がうながす。乗りたくなんてなかった。アナベラと話をつけるまでここを動きたくなかった。
しかし頭痛と倦怠感、のどの刺すような痛みで、ジェーンはもはやクリスの手を振り払うことはおろか、まともに話せる状態ではなかった。
半ば無理やり背負われて、事務所を出ていく。
熱か悔しさのせいか、うっすら膜の張った目でにらみつけたアナベラは、にこやかに手を振って「お大事に」と心にもない言葉を口ずさんでいた。
「三十八度六分。咽頭に炎症が見られます。風邪ですね」
救護室の医師が下した診断に、ジェーンはぼんやりする頭で驚いていた。体調不良は全部、生理によるものだと思っていた。
しかし医師の話を聞けば、熱とのどの痛み、咳はウイルスに感染して起こる炎症らしい。それを一般的に風邪と言うのだとジェーンは知った。
そういえばニコライも咳をしていた。それをラルフが風邪だと言っていたんだったか。彼の口ぶりだと大病ではなさそうだが、ジェーンは気になることがあって医師に尋ねる。
「風邪って伝染しますか」
「ええ。個人の免疫力にもよりますが。くしゃみや咳などの飛沫に混じってウイルスが飛び、感染するケースが多いです。もしご家族と暮らしているなら、マスクをつけるといいですね」




