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湖上の告白③

 狼のかぶり物の下で頭がまっ白になっていたんだと口にするカレンは、痛みを堪えるように眉をひそめる。


「ずるいでしょ。普段は天然のくせして。大事な時になにもできない私とは大違い。私はあの子のような愛嬌もないから、そういうところで補わなきゃいけないのに。またなにもできなかったわ」

「そんなことありません。カレンだってとてもやさしくて気が利く方ですよ。私がはじめてお買い物に行った時も、いろいろ教えてくれたじゃないですか」


 ふっ、と息を抜くようにカレンは自嘲の笑みを浮かべた。


「あの時もプルメリアなら、ジェーンのお財布を用意していたわ。ずっと銀行の封筒を使ってるあなたを見て、そう思ったの。ほんと、あの子といると自分に足りないものを突きつけられる。自分の嫌なところが浮き彫りにされる」


 カレンは頬づえをつき、遠くに目を向けた。その視線の先には、水鳥を指してダグラスと笑い合うプルメリアがいる。


「……ああ、そっか。私が本当に嫌いなのは、自分自身なのかもね」


 ねえ、と出し抜けに呼びかけて、カレンは言葉をつづけた。


「もしジェーンが舞台監督だったら、愛嬌があっていざという時に気転の利く女優と、普段大人しくてとっさの判断もできない女優。どっちを主演にしたい? ふたりの実力は互角だとしたら」


 ジェーンは静かに息を詰めた。カレンが気に病んでいるのは、気遣いや対応力だけではない。大学の先輩でありながら後輩にヒロインをゆずり、自分はかぶり物で顔を隠している現状だ。

 カレンの視線を追って、ジェーンもプルメリアを見る。もしも彼女のようになれたら、ダグラスに異性として意識され、ボートに誘われているだろうか。

 でもそれって、“自分”というものを否定することと同じなの?


「わかりません……」


 ジェーンに答えられるのはそれだけだった。自分を形作る過去のほとんどを失ってしまったジェーンには、“自分”すらわからない。

 だからまっすぐな思いで疑問をぶつけた。


「カレンは、カレンを捨ててプルメリアになってでも、ヒロインの役が欲しいですか」

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