湖上の告白①
その時ついカレンを見たのは、また助け船を出してくれることを期待したのかもしれない。しかし彼女はぼんやりと地面を見つめていた。ルークの言葉さえ届いていない様子だ。
ジェーンは内心首をひねる。
「そういうことなら俺は――」
「ディノは最後っス!」
「なんでだよ」
ジェーンに近づこうとしたディノをルークがすかさず阻む。ダグラスとプルメリアは互いに目を逸らしていたが、意識し合っていることは肌で感じた。きっとこのまま誰もなにも言わなかったら、ふたりでボートに乗ってしまう。
しかしカレンも気がかりだ。マシュマロを焼いていた時もカレンの口数は少なかった。
ダグラスを見れば焦燥に駆られ、思わず口を開く。だがジェーンは一度ぎゅっと目をつむり、カレンの手を取った。
「すみません。私はカレンと乗ります!」
「えっ、ちょ、ジェーン!?」
戸惑うカレンの声を無視して、ジェーンはずんずんと桟橋をいく。貸しボート屋の主人に代金を払い、さっさと舟に乗り込んでオールに手をかける。
そこでハタと気づいた。
「カレン、大変です。私やり方を知りません」
「それでよくまっ先に乗ったわね」
呆れ顔をされてしまったが、「貸して」と言ったカレンの目はかすかにほころんでいた。
オールがゆったりと水を掻く音だけが湖面に広がる。雲が集まりはじめた空を映して、水面は鏡のように澄んでいた。岸辺では水鳥たちが白い羽に頭を埋めて寄り添う。
「ジェーンはバカだわ」
ぽつんとカレンがこぼす。メガネをかけた彼女の目は、ふたりでボート乗りを楽しむダグラスとプルメリアに向けられていた。
「せっかくのチャンスだったのに」
「私もそう思います」
自分ではない女の子に笑いかけているダグラスを見て、どうしようもない寂しさを感じている自分を素直に認める。
プルメリアへの羨望も締めつけられるほどの焦りも、誤魔化しきれない。だけどそれは覚悟の上だ。
「でもそれより、カレンを放っておけなかったんです」
「……本当にバカね。これじゃますます私が嫌な女になるじゃない」
「どうしてですか。カレンは嫌な女なんかじゃないですよ!」




