現を抜かす②
だがそれも束の間、彼は瞬きひとつでにやりと表情を変えた。
「こっちのほうがもっと笑える?」
「ひゃっ。あはは! ダグっ、やめっ、ふふっ、あはは!」
さっと差し込まれた手に脇をくすぐられて、ジェーンは身をよじる。嫌がって腕を突っぱねるほどダグは意地悪な顔になって、どんどん迫ってくる。
気づけばベッドに転がされていた。いっしょになって倒れてきたダグをジェーンは受けとめ、ふたりして子どものように笑い声を上げる。
ふと、息をついたダグの影が覆いかぶさってきた。
「次は大人のやり方で悦ばせてあげましょうか、女王陛下?」
ジェーンの髪をひと房すくい上げ、キスを落とすダグの瞳が艶めいている。ドキリと跳ねた胸を隠し、ジェーンはお返しにダグの右手――その甲にある赤いアザを狙って手を伸ばした。
「それではいつも通りで芸がないのではなくて? 王陛下。たまには違う遊びがしたいですわ」
「なるほど。たとえば?」
すました顔で答えながらも、ダグはすばやく手を引っ込めて捕まらないようにする。それを追いかけてジェーンはひじをつき、身を起こした。反応が遅れたダグの手首をしかと掴む。
だが彼は力を入れて抵抗した。ジェーンも負けじと引っ張る。
「外で散歩して、甘いものでも食べるんですっ」
「それはっ、できない」
「なんでですか!」
「言っただろ。きみはここから出られないんだっ」
「わけがわかりません。理由を、話してくださいっ」
「きみを守るためだよっ。わかってるだろっ、ちょ、もう手離して……!」
「守られる理由なんてありません。ダグ! いい加減キスさせてくださいっ」
「手は恥ずかしいからダメ! 口にして!」
「く、口のほうが恥ずかしいです……!」
「なら俺がする」
パッとダグの抵抗が消えた。あっと思った時には、視界にアメジストが広がり唇をぬくもりがかすめていく。
肩に置かれた手に再びベッドに縫いつけられ、ダグは驚くジェーンの目を捉えながらまるで見せつけるようにゆっくりと、もう一度唇を奪った。
「――ここにいれば、俺がきみを守ってあげられるんだよ」
熱い吐息が唇をなでる。首裏に回った腕に隙間なく抱き締められて、身を起こすことは叶わない。




