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現を抜かす①

 ぼやけるキッチンを背景に、自分を見下ろしているのはダグラスだった。ジェーンと目が合って、彼はアメジストの瞳に陽だまりの笑みを湛える。

 これはダグラスじゃない。ジェーンは瞬時に理解した。


「ダグ。もっとなでてください」


 夢に見る記憶の中の恋人に手を伸ばす。ジェーンが目覚めると同時に、離れてしまった手を引き寄せ頬にあてた。


「どうした? 今朝はやけに甘えん坊だな」


 目を不思議そうに瞬かせながらも、ダグは親指の腹でジェーンの目元をなでてすぐにこの心を満たしてくれる。頬のぬくもりだけでうっとりため息がこぼれるのに、「おいで」と手を広げられたらすべてを委ねずにいられない。

 向かい合わせにひざに抱えたジェーンを、ダグは強くあたたかい腕で包み込んでくれた。


「怖い夢でも見た?」

「……私に意地悪をする上司がいるんです」

「上司? どんな夢なの、それ。夢の中でも大変だなあ」


 よしよしと労ってくれるダグの言葉が本当ならどんなによかったか。あちらが夢でこちらが現実。惜しみない愛で抱き締めてくれる人の恋人が、“ジェーン”という人のすべてだったらもうなにも苦しまず、悩むこともない。


「ダグは今、どこにいるんですか。私を捜してくれていますか……?」

「なにを言ってるんだ? 俺はここにいるだろ」


 大きな手がそっと頬を包み込んで、上向かせる。鼻先をくすぐるように触れ合わせて、ダグはまっすぐジェーンの目を覗き込んだ。

 しかしジェーンはゆるやかに首を振る。このぬくもりも、自分を映してくれる瞳も、夢の中の幻でしかない。


「夢の中で、ダグはいないんです」


 いや、それよりももっとひどい。ジェーンは熱くなる目を歪めて言い直す。


「いえ。ダグはいても、私のことを覚えていないんです。私とあなたはただの友だち。あなたにとって私は、たくさんいる女の子のひとりに過ぎません……」

「信じられないな。こんなにかわいいがいるのに、夢中にならないの? 俺だけのものにしたいって思わないのか? そいつ本当はゲイだったりして」


 口元に手をあて愛らしく首をかしげてみせるタグの気遣いがうれしくて、ジェーンは小さく笑った。しかしその反応はダグにとって物足りなかったらしく、ふくれっ面になる。

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