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緊急事態①

 ふと、ルークをあしらっていたディノと目が合う。ジェーンは感謝の気持ちを込めて微笑んだ。するとあの小雨が降っていた日、レーゲンペルラの花に注いでいたようにディノの目がおだやかに細められる。

 気づくとルークとダグラスは黙り込み、ゲリライベントでジェーンに助けてもらったと話すプルメリアの声だけが、リビングに響いていた。




 翌日。この日もジェーンはニコライとラルフについていき、雲の城の修繕作業に勤しんでいた。


「ジェーン、休憩時間だ。ニコライに伝えてくれ。そしたらお前は帰るんだぞ」

「わかってますよ」


 ラルフから頼まれ、ジェーンは這いつくばっていた床から立ち上がった。

 今夜のニコライは、ラルフがスイートルームだと見込んでいた城門上の塔を改創している。あの見事な神鳥の彫刻で飾られたテラスのある部屋だ。

 ジェーンの心はちょっとだけドキドキと揺れていた。

 仮スイートルームだけは塔の螺旋階段と繋がっていない。なので中庭側の外階段から、ジェーンはひと際高い塔のてっぺんを目指した。


「ニコライさーん。休憩時間です」


 声をかけながらジェーンは古めかしい扉を開ける。すると、目の前にニコライがいて肩が跳ねた。


「ああ。俺もちょうど、行こうと思っていたところだ……」


 ニコライは伏し目がちにかすれた声で言う。出勤してきた彼に会った時も、どこか沈んだ空気をまとい、いつもより口数が少ないと感じた。

 ジェーンはそろりと先輩のこけた顔をうかがう。


「少し、お疲れですか……?」

「そう、だな。寝不足かもしれない。最近、眠りが浅いようなんだ……」

「そうですか……。今日は早めに休んでくださいね」


 うなずくことも怠そうなニコライに、テラスが見たいとは言い出せなかった。ジェーンは後ろをついてくるニコライを気にかけながら、ゆっくりと階段を下りる。

 アーケードまで来て、貸し衣装屋にいるラルフの元へ戻ろうと扉に手をかけた時だった。


「ゴホッ! ゴホッ、ゴホッ!」

「ニコライさん!?」


 激しい咳が聞こえて慌てて振り返る。ニコライが口に手をあて、体を折り曲げるようにして咳き込んでいた。

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