かわいい食べ物④
その違いになにか理由があるのか考えてみるが、ジェーンはカレンの期待した目から視線を下げた。
「……わかりません。自分でもどうしてこんなに惹かれるのか」
もしカレンの言う通り名家の生まれだとしたら、家の者もジェーンを捜して騒ぎになっているかもしれない。
けれど、ジェーンの家族や知人を捜索してくれているロンからは、一ヶ月が経っても進展したという話はなかった。
私は誰にも捜されていないの? それはつまり……。
「単にジェーンの好みなんじゃないのか」
にわかに、塞がりかけていた視界が開ける心地がした。ジェーンは弾かれるように向かい席のディノを見る。ディノはもうマイペースに湯呑みを傾けていた。
「そうね。ちょっと穿った見方だったかもしれないわ。ごめんなさい」
テーブルから身を引き、ひざの上で丸めたカレンの手をジェーンは握った。ディノに教えられた気がする。そんな深刻に考えなくてもいいと。
「いえ。もし私がお嬢様だったら、カレンたちにたくさんお礼ができます。そう思うとうれしいですよ!」
そっと手を握り返してくれたカレンとくすくす笑い合う。
ジェーンはちらりとディノを見た。その視線に気がつき、ディノの目がかすかにほころぶ。陽光に照らされた彼の微笑みに、ジェーンも目を細めた。
「次はどこ行きたいの、ジェーン」
「日用品と食品売り場です」
「じゃあ地下一階ね」
トレーを持ちながらカレンとそんなやり取りをし、席を立った時だった。イスの背もたれに置いていた本入りの紙袋が、褐色の手にひょいとさらわれる。
ジェーンが口を開く前にディノは先回った。
「あんた、はぐれるなよ。迷子になったらな、ここで一生働くことになるんだ」
「そ……っ」
そんなことはない、と打ち消そうとしたジェーンの脳裏に、一ヶ月前の自分が過る。
ガーデンで目覚めて、記憶も身寄りもないとわかったらどうなった? ガーデンの整備士として働いているではないか! まさかロンの厚意ではなく、それが社会の不文律だったというのか。
ということは、にこにこ笑顔の案内お姉さんにも悲しい過去が。




