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第九話 迫る魔の手

 草木は枯れ果て、岩と砂しかない戦場に集まる子ども達。

 

 身なりは軽装、武器は刃こぼれした剣や槍を持たされる。

 物資は互いに不足している中での殺し合いが始まった。


 乾いた風が砂埃を巻き上げ、頬を撫でていく。



 仲間が剣を取り戦っているのに、私は一人、自陣側の物陰に隠れて震えていた。


 戦いたくない。

 誰も殺したくない。


 レオを傷つけたくない。



 それならいっそ、自分がここで死んだ方が・・・。



 ずっとそんな考えが頭を埋め尽くしていく。




「レオ・・・会いたい・・・・」




 膝を抱えて俯いていると、軽い足音が近づいてきて視界に細い白い足が映る。


 顔を上げるとそこには、浅緑色の長髪を靡かせた中性的な顔立ちの少年が立っていた。

 この少年も私と同じ契約を結ばされた兵士だ。

 きっと、ずっと動かないでいる私を見て怒りにきたのだろう。


 何故戦わないのか・・・と。



 掛けられる言葉など分かりきっていたため、私は顔を逸らしまた俯く。



「君はここで何をしているんだい?皆先に行ってしまったよ」


 

 思った通りの質問だ。ただ、予想と違ったのは優しい声色で声をかけられた事。

 私は目を合わさず、そのままの姿勢で答えた。


「別に・・・。あなただって、ここに残ってるじゃない」


「僕は別件で動いてるんでね。君みたいに暇を持て余しているわけじゃないよ」


「別件・・・?」


 

 顔をあげ、もう一度彼を見上げる。

 先ほどの優しい声色とは違和感がある、不適な笑みをこちらに向けていた。


 背筋が凍った。


 今まで彼との面識はない。何かをされたわけでもないが、蛇にでも睨まれたネズミのように体が硬直し動かない。


 冷や汗が頬を伝う。



「どうしたんだい?そんな鬼でも見たかのような顔をして」


「え・・・その・・・」


「怖がらないで。僕は君と同じ仲間じゃないか・・・ほら一緒に行こうよ。楽しい楽しい殺し合いにさ」


「い、行かない」


「どうして?君の役割は闇の精霊術師達を殺す事だ。他に存在価値があるとでも?」


「うるさい!私は誰も傷つけたくないし、されてるところも見たくないの。もう放っておいて!!」



 殺し合いを楽しいという少年が私の肩を掴むので、それを振り払い立ち上がってその場を離れようとした。



 背をむけ、早足で距離を取ろうとする私の背中で「ふーん・・・」とつまらなさそうな低いトーンで呟く声が聞こえる。



「面白くないね。君」




 ひどく、冷たい声。



 瞬間、体に無数の風穴があき、ヌルッとした生暖かい赤いものが肌を染めていった。




 私の生存時のはっきりとした記憶はここまで。


 あとは朧げでよく覚えていない。



 スパイだったのか、ただ殺しがしたかっただけの狂人か分からないけど、仲間に殺されて私は命を落とした。



♢♦︎♢♦︎



「これが、私の前世の記憶よ」



 メラニーの前世の話は、俺には到底想像できない程の残酷なものだった。


 そして、話の内容と俺が見た過去の戦場はおおむね一致しているし、あの世界は本当にメラニーの前世の世界なのだろう。


 俺は今にも泣きそうな横顔を見せる彼女に、何か声をかけるべきだったのだろうけど、言葉が見つからない。



 聞かなければならない話だった・・・。でも、せっかく楽しそうにしていたメラニーをこんな表情をさせてしまった。



 申し訳ない気持ちと、助けに行けなかった前世の自分に腹立つ気持ちが混ざり買い物袋を握る手に力が入る。



「今日はありがとう・・・帰ろっか」


「うん・・・」



 ベンチから立ち上がり歩き出し、無理に微笑む彼女。


 前世の記憶がない俺は、何も言ってやれない。

 だから代わりに彼女の手を優しく握ることしか出来なかった。


 俺よりも少しひんやりとした手が、じんわりと温もりが伝染していく。


 指を絡ませると、メラニーも返事をするように強く握り返した。



 



 それから一言も会話をすることもなく、バスで帰る彼女を見送り、俺は歩いて帰路についた。


 歩きながら考え事をしてボーッとしてしまう。


 

 メラニーの言っていた浅緑色の長髪の少年のことが気になっているからだ。


 

「どうして仲間を・・・」



 自陣内での仲間殺し。


 あの時遭遇した前世の俺は、いつどうやってメラニーの死を知ったのだろうか?

 自分で乗り込んだのか・・・それともあの少年と直接会ったのか・・・?


 もし俺が過去に戻った際に、俺がメラニーの前世を救うことができたら・・・未来は変わってしまうんだろうか。


 なんなら前世の二人を別の場所に逃してやることもできるのでは。



 そんな事をしたら、俺たちは消えてしまうんだろうか・・・・。


 本当にメラニーは、この宝玉を届けるだけで納得しているんだろうか。

 もしかしたら、今の俺じゃなくて、ちゃんと好きだった前世の俺と幸せに過ごせるんじゃ・・・。



 


 メラニーと違って記憶の無い俺は、やっぱり感覚が違うように感じる。

 

 前世の記憶を持っているメラニーは当然前世も現在の自分も同一人物という認識でいられるけど・・・俺は違う。


 記憶がない。その重要性は明らかで、前世と今の俺は全くの別人という感覚に陥る。

 


 メラニーは今の俺も前世の俺も同じだと、俺は俺なのだと言ってくれた。




 でも・・・俺にはそう思えないんだ。




 彼女の好意は全て前世の俺であって・・・今の俺じゃない・・・。





 胸が苦しくなる。








「なんで俺には・・・記憶がないんだ・・・」

 




 どこにぶつけたらいいのか分からない感情が溢れ、壁に思いっきり拳を殴りつけた。



♦︎♢



 モヤモヤとした気持ちを拭いきれないままだが、それでも太陽はのぼる。


 朝練に参加するため、今週も早起きして学校へ向かうことにした俺は路面電車に飛び乗った。


 


 なんとなく、メラニーに会うのが気まずい。

 

 どんな顔をして見ればいい?


 普段通り振る舞えるのか?


 また悲しそうな顔をしていたら?



 次々に押し寄せる不安を抱え、足取り重く正門へ歩いて行く。そこに一人隅の方に立っている人影が見えた。


 

「メラニー・・・お、おはよ」



 俯く彼女に声をかけると、俺に気付き表情をコロッと変えて


「おはよレオ」


 と嬉しそうに挨拶を返す。

 


 いつもと変わらない姿を見て、俺のさっきまでの不安は、全て吹き飛ばされていた。



「朝早いのに、毎日練習見にきてくれるんだね」


「もちろんよ。・・・もしかしてお邪魔?」



 不安そうに顔を覗き込んでくる。

 

 ああぁ〜〜〜〜(悶絶)



「そんなわけ無いだろ!すごく嬉しいよ。なんかメラニーに見られてると気が引き締まる気がするんだ」


「私見てるだけなんだけど、そういうものなの?」



「だって・・・か・・カッコ悪いところ見られたくないし・・・」



 急に恥ずかしくなり、カッコ悪いところの声はか細くなり、メラニーから目線を逸らしスタスタと練習場へ足早に向かった、


 小さい声に加えて、距離もとったことでほとんど聞き取れなかったメラニーは


「レオ?なに??なんて言ったの」


 と俺の後を追いかけてきた。




 最近は毎日この調子で、メラニーは俺の練習を見に来ることが日課となりつつあった。

 

 学校内でも、もうお決まりのペアというか、ちょっとした有名人で馴染んできていたのだが・・・



 それをよく思っていない者も少なからずいる。




 俺にとってメラニーと過ごす上で最も不安視していた事案だ。


 その魔の手は、すでに近くまで迫っていた。






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