第三話 夢か現実か
目の前で繰り広げられている殺し合いを眺めていると、ふとある歴史を思い出した。
「これって・・・もしかして《魔神戦争》?」
200年前に起こった、人類と魔物と精霊による衝突で起こった戦争だ。
しかし一つ疑問を抱いた。それは魔物と精霊が見当たらないこと。
もし魔神戦争なら三巴状態になっているはず、それなのに人同士でしか争っていない。
あと、戦っているのは大人ではなく、俺と変わらないくらいの歳の子供達。
子供が大人の戦争道具にされ、兵士として戦わされていた。
「一体これは・・・どう言う事なんだ?」
わけが分からない。
だって、俺はさっきまで学校にいたんだ。それなのに目を覚ましたらいきなりこの世界に居た。
しかも俺が知らない戦争真っ只中のど真ん中。
混乱し油断していた。
そのせいで背後に忍び寄る影に気づけなかった。
ジリジリと距離を詰めてくる影が俺の背後を取ると、雄叫びをあげて剣を振り翳していた。
「ああああああ!」
「!?」
振り返った時にはもう遅く、そこから回避するのは絶望的な状態で、身体を捻り深傷を避けることくらいしかできなかった。
ヒュンッと切先が俺の腕に掠る。
少し血が滲んだが、大したことは無い。
襲ってきた相手はやはり俺と変わらないくらいの歳の子で、血で汚れた衣服を纏って剣を握っている。
その剣はあまり見なれないもので、刃には魔力が込められ黒いオーラが巻きついていた。
それはまるで・・・魔式剣術のようだった。
「うあああああ!!!」
黒髪の少年は黒い刃で、再び俺に襲いかかる。
殺傷能力などはないが、攻撃を受け止めることくらいは出来るかと思い、カラビナで腰にぶら下げていた柄型魔道具を掴み魔力を込めた。
少年と同じ、黒い魔力を纏った剣身は鈍い音を周りに響かせ攻撃を受け止めると、刃同士がジリジリと擦り合い、俺と少年の顔が一気に近づく。
「え・・・?」
俺・・・・?
ある程度違いは感じるものの、その剣を振るっていたのは、自分とそっくりの少年だった。
長めの前髪の隙間から覗かせる金眼がギラっと光る。
「君は・・・誰だ?」
正気ではない相手に問いかけるも、興奮状態だったからか声は届かず、全く噛み合わない回答が返ってきた。
「返せ・・・!あいつが居ない世界なんて・・・僕が壊してやる!全員殺してやる!!お前も!!全員!!全部!!!!!」
この子は一体何を言っているんだ?
強い殺意は魔力に変わり、気でおされる。
平和に生きてきた俺にとって、はじめて受ける殺意はとても恐ろしく、背筋がゾッとした。
一度剣を弾き後ろに引くが、これ以上は崖で距離を取れない。
「くそ」
本当に、何なんだ一体。
一か八か。懐に飛び込んで腹を切るしかない。
剣を一度構え直し、敵がこちらに襲いかかった瞬間を狙う。待つんだ。相手の隙を、見逃すな。
スゥっと息を細く吐き、その時を待った。
「死ねぇええ!!!」
冷静さを失った剣は、必ず構えがぶれる。
案の定左脇に空間ができた。
「(今だ!)」
足を強く踏み込み、相手の懐へ・・・・行くはずだったが、突然俺と少年の間に人が割り込んできた。
「レオ!殺しちゃ駄目!!」
その人は、メラニーだった。
一瞬の出来事で、俺は飛び込んできたメラニーにぶつかり、メラニーは俺に抱きついたままそこから離脱するように崖から落ちた。
「わぁぁぁぁ!!落ちる落ちる──!!!」
ものすごい勢いで落下していく。
このまま地面に叩きつけられたら、確実に死ぬだろうという高さだ。
せめてこの子だけでも守らないと!とメラニーの頭を胸に抱き込む。
メラニーと抱きついたまま、地面にぶつかる・・・!!
と、その直前に強い光が俺たちを包み込み、来るはずであろう待ち構えていた落下の衝撃は来ず、ゆっくり目を開けるとそこは元の世界の見慣れた学校の中庭だった。
鳥が囀り、周りに微精霊がふわふわと飛んでいる。
緑が生い茂った、いつもの中庭のベンチに俺は横になっていた。
「・・・・ゆ、夢・・・か?」
心の声が漏れ、つい独り言を呟いたが、それに返事がすぐ返ってきた。
「夢じゃない。現実よ」
「!!」
声は、俺の頭上から聞こえた。
そういえば、頭がゴリゴリして痛くない。柔らかくて暖かった。
________まさか・・・!!!
ガバ!と勢いよく上半身を起こすと、そこにメラニーが座っていた。
どうやら俺は、メラニーに膝枕をしてもらっていたようだ。
「め?!めめ、メラニーさんっ!?!どどど、どうしてひ、ひざ、膝枕っ」
「呼び捨てでいい。変な感じするから」
「あ、じゃぁメラニー・・・ってそうじゃなくて?!どうして俺と中庭にメラニーが?!──っ!痛ぅ〜」
頭痛で倒れ、目が覚めたら別世界で、いきなり転校生が現れ死にかけて、再び目を覚ますとその転校生に膝枕をされている状況。
そりゃぁパニックになるのも当然の話であって、興奮した俺は突然腕に痛みが走り驚いた。
「え?これ・・・」
夢の中で、少年の剣が掠った腕の傷がそのまま残っていて、服に血が滲んでいる。
「だから言ったでしょ。夢じゃないって」
メラニーはそう言うと、ポケットからハンカチを取り出し包帯がわりに俺の腕に巻きつけてくれた。
「夢じゃないって・・・じゃぁあそこは一体どこなんだ?何で君もあそこにいたんだ?あの戦争は?あの少年は一体・・・!」
疑問がどんどん湧き出し、いっぺんに聞いてしまった俺はハッとし「ごめん」と呟き一旦落ち着く。
すると、メラニーは髪に刺していた簪を抜き取り俺に見せる。
「これ、きっとあなたのソレと同じ物でいきなり光出したの。光に包まれた後はあの世界・・・・過去に飛ばされていた」
「過去?タイムスリップってこと・・・?じゃぁ、あれはやっぱり200年前の魔神戦争!」
メラニーは静かに首を横に振ると、簪を元の髪に刺す。
「魔神戦争なんかじゃない。あれは、もっと酷い戦争だった・・・精霊戦争」
「精霊・・・戦争?」
はじめて聞くものだった。
歴史の書物にも、そのようなことは記されていない。
「今はもう存在しないと言われている精霊。闇と光の精霊。その両者と人間が起こした戦争のことよ」
淡々と話すメラニー。
「なんか、まるで当事者だったみたいな言い方するな君」
冗談のつもりではははと笑いながら言う俺に、彼女はあまりに真剣なトーンで「そうよ」と即答するので、「まじ?」と困惑気味に聞くと「マジ」と返ってきた。
メラニーはスッと立ち上がると、俺の前にきて見下ろす。
「私・・・前世の記憶があるの。約束を果たすために探していた」
「前世って、そんな漫画みたいな話・・・」
「あなたも会ったはずよ。あなたの前世と」
「・・・え?」
急な非現実的な話に、俺の頭は置いてけぼりになっていた。
前世とか、タイムスリップとか、精霊とか戦争とか・・・急にそんなこと言われても、俺はただの一般的な学生でそんな・・・そんな・・・・。
否定したい気持ちと、確かに痛む腕の傷が本当であったことを物語り、傷をつけた人物の顔が浮かび上がる。
俺と同じ顔をした少年のこと。
まさか・・・そんな・・・あの子が。
「俺の・・・前世・・・?」
静かに頷くと、メラニーはゆっくりと、優しく俺を抱きしめた。
「暖かい。生きてる・・・」
信じられない事が起きているけど。
メラニーの声は震え、死に別れた恋人と再会したように俺に接してくるので、彼女の言っていることに嘘とは感じられない。
彼女の好意は嬉しいけれど、それは前世の俺に向けたものであって、俺じゃない。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
でも今のメラニーを突き放すわけにもいかず、俺は彼女の体に手を回して抱きしめ返す。
ごめんとか、覚えてないとか、今そんな言葉は彼女にとって刃だ。
暫くの間、俺たちは中庭で抱き合い、校内では授業終了の鐘が鳴り響いていた。