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8帰ってもいいですか?

 麗しのキスはすぐに実行されるかと思われたが、二人はいったん距離を取った。そして今までのムードが台無しなことを言い始めた。確かに元の姿に戻ったときに今の服は小さすぎるだろう。如月君は持参したリュックから大人用の服を取り出した。


(愛斗君の元の姿、私見たことあるわ)


 二人の少年の行動を見ていたら、愛斗君の元の姿を思い出した。教えてもらっていないと思っていたが、私はすでに元の姿を知っていた。少年二人の麗しのキスで、一度彼らは元の姿に戻っていた。あの時はびっくりしすぎて記憶が一部飛んでしまっていた。兄が中性的なら弟はその反対だった。如月君の元の姿より身長は大きく180cm以上はありそうだった。少年姿からは想像できないくらい男らしい姿だった。



「念のためにと二着持ってきましたけど、着ます?」

「着る」


 私が愛斗君の元の姿を思い出している間に、少年たちは話し合いを続け、いったん私たちの前からいなくなった。そして廊下で着替えをして戻ってきた。ぶかぶかなシャツにズボン姿の二人だが、元の姿に戻るためなら仕方ないだろう。少年がぶかぶかの服を着ている姿もかなり萌える。今日は心臓に悪いことばかり言われるが、それを上回る萌えシチュエーションが豊富で何とか私のメンタルは保たれていた。


 下着について大人用を着ているのか、かなり気になったが、その辺はやぶな質問だろう。黙って彼らの様子を見守ることにした。


 元の姿に戻る準備が出来た少年二人は再度、顔を近づける。今度こそ二人の少年の唇は触れ合った。今回は目を閉じろと言われなかったので、ばっちりと彼らの麗しのキスを目に焼き付けた。


「ど、どうして元の姿に」

「愛斗、なぜ元に戻る方法を俺に教えなかった」

「オメデトウゴザイマス。モトノスガタニモドリマシタネー」


 少年二人の姿は無事に成人男性の姿に戻った。麗しのキスからの元の姿に戻る光景は、実は初めて拝んだ。なかなか心臓に悪い戻り方である。とはいえ、良いものを見せてもらえて満足ではある。意外に冷静な自分に驚きだが、この家を出たら萌え苦しむかもしれない。兄夫婦は驚きの表情で二人の姿を交互に見ていた。私はそこで二人がずっと元に戻っていられる方法を思いつく。


「あの、つかぬことをお伺いしますが、あなた方二人が同棲すれば何もかも解決するのではないですか?」


 先ほど、私は塾のアルバイトの後輩(成人済み)の少年と、塾の生徒(成人済)の少年に告白された。あれはその場しのぎの血迷った発言だったのだ。だって、私と付き合って彼らにメリットがあるとも思えない。性別上、私は女性というくくりにはなっているが、決して女子力が高くはないし、男性に尽くすような性格でもない。男に甘えることもないし、性癖もまあおかしいと自覚している。


 加えて彼らは世間ではイケメンと呼ばれる部類の人間だ。彼らとお付き合いしたい人は山ほどいるだろう。そんな彼らと隣に並んで無事でいられる自信がない。


『それは嫌だ!』


 せっかくの私の提案は即座に却下された。成人男性の二人の叫びは耳に悪い。良いアイデアだと思ったのに残念だ。私は少年好きだが、同性愛にも多少の理解はある。生きていくために必要なら尚更、彼らの関係を認められるべきだ。


「だから、代替案として折笠先生を間に挟もうとしているんでしょう?それくらい気づいてくださいよ!」

「男二人とか、俺はごめんだ。百歩譲って如月先生と一緒なら許せる」


 なんだか私の存在の扱いが雑な気がする。



「俺は許さないぞ。元に戻れたとしてそれがなんだ。愛斗が少年の姿になるという事実は変わらない。またいつ子供の姿に戻るかわからないのに、他の人間にかわいい弟を他人に預けることなんてできない!」


「私も反対よ。如月君、だっけ?その子と一緒に暮らすというのもリスクが高いわ。私たちなら、愛斗君に不自由な暮らしをさせないのに、どうしてわからないの!」


 しばらく放心状態だった兄夫婦だったが、愛斗君がこの家を出ていくとようやく理解したらしい。ものすごい勢いで反対してきた。


(私がこの場に居る意味って何だろう)


 如月君と愛斗君が同棲します。


 それだけですべて解決だ。うん、それでいいではないか。そうすればすべてがうまくいく。雑な解決策に満足した私は、このまま静かにこの家からフェードアウトしようと決意したこれ以上、この家に居たくなかった。



『お困りのようだけど、助けが必要かしら?』

「すべてあなたのせいだと思いますけど」


 私は彼女に監視されているらしい。お暇しようかと席を立ちかけた時、頭の中に謎の女性の声が響き渡る。そもそもの元凶はこの女性だと思う。それなのに助けが必要か聞いてくるのはおかしな話だ。


『私、BLボーイズラブも嗜むわよ。だから、彼らの同棲ってかなり興味があるの』

「はあ」


『でもね、残念ながら私はあなたの目を通じないと外界のことがわからないの。せっかく彼らを少年姿にしたのに、それっきり、その姿を拝めないなんておかしな話よね』

「それはいったい……」


『だから、彼ら二人が同棲するのはとてもうれしい展開なんだけど、それだと私は彼らの生活を覗くことが出来ないの。私の言いたいこと、わかる?』



「睦月先生、今日のところは帰りましょう?帰りに俺の家に寄ってください」

「俺も連れていけ」


『ずいぶんと彼らに好かれているのねえ。まあ、BLを嗜むとは言っても、あなたも私も彼らの元の姿には一ミリも萌えないけれど』

「それには同感です」


 目の前に立つ成人男性二人は私の返答を待っている。成人男性なのだから、私の助けを借りなくてもさっさとこの家を出ていけばいいのに。


『面白いことを思いついた。お前にも私の呪いを授けてやろう』


 頭の中で嫌な発言が聞こえる。呪いなどお断りだ。とりあえず、頭の中と目の前の人間、両方に意識をむけて会話するのは難しい。いったん、頭の中の声をシャットダウンすることにした。


「呪いの件は保留にしてください。あなただって、この家に長居はしたくないでしょう?」

『まあ、お前とはいつでも会話ができるからな。仕方ない。この思い付きはまたの機会に取っておこう』


 あっけなく私の言葉は頭の中で聞こえる女性に受け入れられた。そのまま女性の声は聞こえなくなった。ようやく私は彼らと向き合って会話できる。


「お前、また頭の中で誰かと会話を」

「それって、俺たちをこんな姿にした」


「それはまた今度話します。この家を出るのでしょう?成人男性が私みたいなか弱い女性を頼るのは感心しませんが、車があるのは私だけですので、仕方ありません。乗せてあげてもいいですよ」


 謎の女性は私の頭の中だけに聞こえる仕様らしい。如月君たちは私が独り言を呟く変な女だと思っているだろうか。いや、以前にも同じことがあってきちんと説明している。非現実なことでも、彼らにとっては自分自身が非現実の出来事を経験しているので、私の言ったことも信用してくれるだろう。彼らの瞳に軽蔑や呆れの表情は見られなかった。



「では、私たちはこれで失礼します」

「今までお世話になりました。もう、この家に戻ることはありません」

「僕たち、三人で新たな生活を始めます」


 この家から帰ると決まった途端、私たちは直ぐに行動を始めた。簡単な挨拶をしてリビングを出る。兄夫婦は突然の展開についていけなかったようでソファに座って放心していた。とはいえ、彼らから理解される必要はない。兄夫婦の愛斗君への執着は吐き気がするものだったし、そもそも私にとって彼らは赤の他人同然の存在で気を遣う筋合いもない。


 私たちは彼らが正気になる前に家を出て、停めていた車に乗り込んだ。空を見上げると、朝は雲一つない晴天だった空がどんよりと曇り始めていた。事前に門を開けてくれた愛斗君のおかげで私たちはスムーズに家の敷地から出ることができた。

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