婚約者に求婚されて、犬に吠えられた方がまし、と拒否しました
その日は特別な日だった。
この国では春月の最初の日に、恋人の好きな花を贈って求婚すれば幸福な結婚ができる、という風習がある。
古くからの風習で、王国では結婚する者のほとんどが春月の求婚を老いも若きも経験して結婚をしていた。
貧しい者は一輪の花を。
裕福な者は両手から溢れそうな花束を。
恋人に、婚約者に、心をこめて贈るのだ。
だから私の婚約者も片膝をつき、片腕を胸にあて残る片腕に花束を持ち私に求婚をした。
綺麗な大輪の赤い薔薇の花束で。
場所は婚約者の屋敷の夜会会場で、周りには多くの人々が微笑ましげにこの求婚を見ていた。
婚約者は伯爵家の次男で、婚約してからずっと赤い薔薇を私に贈ってくれていた。
泣いている私を、婚約者も周囲も嬉しくて感激しているのだと、好ましいものと優しい眼差しを向けていたけれども。
「……ひどい……」
私は、もう我慢できなかった。手に握りしめていたお気に入りの扇子が小さくミシリと音をたてた。
「ひどい! 婚約して2年間ずっと赤い薔薇! 求婚の時まで、ひどすぎる! 赤い薔薇は貴方の以前の恋人が好きだった花なのにっ! そんなに私が疎ましいの!?」
叫んだ瞬間、ぎょっと婚約者も周囲も凍結した。
「私が好きな花は黄色い水仙なのに、婚約した時も言ったのに、嫌がらせのようにずっと赤い薔薇ばかりを……っ!」
私は赤い薔薇の花束を婚約者から奪って投げ捨てた。水仙が好きだと伝えても、安っぽい花よりも貴族である自分が贈るのは高価な花が良い、とレナードは薔薇しか贈ってくれなかった。
「もう耐えられない。チョコレートもレースいっぱいのドレスもプレゼントされるもの全部、以前の恋人の好きなものばかり。求婚の時まで。そんなにこの婚約が嫌ならば最初から……っ」
でも、それ以上は言えなかった。
婚約者の家は事業に失敗して、お金が必要だった。私の家は男爵家だけども商売で成功して、お金があった。
お金で結ばれた、婚約者であるレナードの意志を無視した婚約だった。
2年間、レナードは婚約者として不足なく義務を表面上は果たしてくれた。
週に一度のお茶会。
夜会のエスコート。
愛していた恋人と別れて、私とするデートはかつて恋人と訪れた店で。
プレゼントは恋人の好きなもの。
政略だから。
下位の男爵家から上位の伯爵家に不満なんて言えないから。
レナードが恋人と引き離されたのは伯爵家の意向でも、私とのお見合いのためだったと聞かされて、その罪悪感もあって。
私は笑顔でありがとう、といつも言った。心が壊れそうでも。
耐えていたのに、周りには幸せそうな恋人たちが今日はたくさんいて、赤い薔薇を見て自分が惨めで耐えられなくなった。
貴族の娘が人前で声を上げて泣くなんてはしたないことなのに、堰を切った涙は止まらなかった。たまりにたまり、くすぶり続け、つのらせた感情が赤い薔薇という鍵にこじ開けられて破裂してしまったのだ。
レナードが望んだ婚約ではない。
わかっている。わかっているけれども、求婚の時までどうしてこんな目に遭わなければならないのか、と自分が哀れで情け無くて。
かといってお互い政略なのだからと、これ以上責める言葉を重ねることもできなくて。
足下からざわざわと這いのぼってくる好きなのに、という気持ちを噛み殺し私はうずくまって泣いた。
視界の端で私が水仙が好きということを知っている友人たちが、扇子を広げて口元を隠しながらヒソヒソと話しているのが目に映った。
「……赤い薔薇の求婚をされるなんて、まだ犬に吠えられた方がましだわ……」
私の言葉にレナードは青い顔をして立ちすくんでいた。
と昨夜の夜会で大泣きをしてレナードの体面にも伯爵家の面目にも泥を塗ったのだが、目の前には謝罪するレナードの姿があった。だがその表情は、ありありと屈辱的だと歪んでいた。
朝早くからの自宅への先触れなしの突撃訪問に、レナードへの恋心がすでにひび割れしている私はうんざりとして席に座った。
たった1日で娯楽性の高い話題として社交界で広まったレナードの求婚の失敗。加速する醜聞を伯爵家は何とか覆したいのだろう。
もちろん二人きりで会ったりはしない。
レナードは侍従を連れてきているし、私の後ろには護衛と侍女が立っている。用心のために扉は少し開けられ廊下にも幾人か待機していた。
「すまない。水仙は終わりの時期だから両手に溢れるほどの花束にする量が花屋に無くて。だから薔薇に。それに薔薇の方が豪華で見栄えもいいし、高価だからいいだろうと思って」
レナードの言葉に私はあきれてしまった。
「求婚の花は、相手の好きな花です。それに貴方は私が好きな花が水仙だと知っていても、以前の恋人の好きな赤い薔薇にしたのですね」
「すまない。今まで赤い薔薇を嬉しそうに受け取ってくれていただろう? だから赤い薔薇も好きなのか、と」
「婚約時に私は水仙が好きと言いました。それでも赤い薔薇を贈られ、つまり以前の恋人の好きな赤い薔薇を私に贈るのは、この婚約が不本意であるという貴方の意志表示だと思いました。しかも花だけではなく他のプレゼントも全て以前の恋人の好きなものですから、上位貴族の貴方が下位貴族の私を蔑んでいるのだと。それほど露骨にされては、あからさますぎて笑って受け取るしかないではありませんか」
「すまない。そんなつもりは……」
「どちらにせよ貴方は花屋を数軒回って水仙を集める熱意も花屋に水仙を予約する手間さえ惜しむほど、私に愛情はなかったということですね」
ぐっと押し黙ったレナードに私は溜め息をついた。
「すまない、俺は……」
「貴方はダラム産の紅茶が好き。肉は牛肉よりあっさりした鶏肉が好きで菓子は甘さ控え目がいい。シャツはハイエン店の縫製が着やすいと好み靴はサガリ店。ねぇ、貴方は私の好きなものが言えますか? 2年間、何度か伝えましたけど一度も叶えられたことはないですよね」
「観劇も、デートのお店も、プレゼントも、全部全部。政略だからと諦めましたが、愛情もなく誠実さもない、そんな貴方に尽くして支える妻になるために私はニコニコ笑って赤い薔薇に手を伸ばすのは無理でした」
「すまない。俺は女性は値段の高いものの方が好き、と聞いたから常に高価なものを選んだだけで以前の恋人は関係ない。高額なものを選んだ結果そうなっただけで……。他意はなかったし、ましてや悪意なんて……」
レナードは以前の恋人が高級品嗜好だった為、たまたま同じものを贈ることになっただけと主張をした。
「そうですか、たまたまですか。では悪意もなく、相手がそれをどう思うか考えることもなく、傷つくことなんて想像することもなく、デリカシーもなかった、ということですか」
真冬の砂漠のように冷たく容赦なく扱き下ろす私に、レナードは不愉快そうに顔をしかめた。
「確かに婚約者への配慮に欠けているところはあったと思うが、こうして謝罪もしているんだ。たまたま同じだっただけなのに君が勝手に誤解をして、以前の恋人が、と騒ぎを大きくして。俺だって迷惑をしているんだ」
2年前、私はレナードとお見合いをした。
絵本の貴公子のように整った容姿のレナードに優しくされて、小鳥が見る夢のように恋をしてしまった。13歳だったのだ。私的にカッコいい年上の王子様に憧れる夢見る年頃の最盛期だったのである。それにレナードの髪は、私と同じ身長の幼なじみと同じ太陽みたいな金髪で私に安心感を与えた。
でも、レナードに相愛の恋人がいたなんて知らなかったし、知っていたならば父に土下座をしてでも婚約者にはならなかった。
今までは、私との婚約により恋人との仲を裂いた結果になったことに気が咎めていたけれども、だからこそ我慢をしてきたけれども、酷い言い訳ばかりのレナードに気持ちがさっぱり吹っ切れてしまった。
うすうす理解していたけれどもレナードは自分に酔っていて自分が心地好ければそれでいい人なのだ、と。
私、悪くないよね? って。
私にも悪い点はあったと思うけどレナードに比べたら、私の罪悪感を返せ、て夕日に叫んでもいいレベルだと思うと、気持ちも氷点下まで一気に降下して最後の恋心も凍りついて粉々になってしまった。
もしかしたら私のレナードが好きという気持ちも最後の方は罪悪感から、自分自身にかけた暗示のような思い込みだったのかもしれない。
私は背筋をまっすぐに伸ばし呼吸をひとつして言った。
「婚約は破棄となります、貴方の有責で」
「な、何故!?」
レナードは動揺して叫んだ。
「俺が謝ってやっているのに!」
「春月の最初の日の求婚は、神事がもとになっています。恋の女神様に花を捧げる儀式だった、と聞いています。ですから恋の女神様の加護のもと、相手の好きな花を贈れば幸福に、相手の嫌いな花を贈れば不幸な結婚になる、といわれているのです」
レナードはまだ疑問の表情だ。
「つまり貴方は人前で私を不幸にする、と宣言をしたのです。いくら政略とはいえ、いいえ、政略だからこそ腹の底はどうであれ建前は大事なのです。お互いに利害関係や協力関係が上手くいっていることを周囲に示すために」
レナードの顔色が変わった。
「貴方はその関係を堂々と壊したのです。婚約破棄は当然です」
昨夜の夜会で、私が笑顔で赤い薔薇の花束を受け取れば問題はなかった。私の好きな花が水仙であることは一部の人しか知らないのだから。私さえ我慢をすれば。
でも2年間で、レナードへの恋心は少しずつ少しずつ削られていっていて、花が散るように草が枯れるように、好きという気持ちは消えていっていた。わずかに残っていた好きも赤い薔薇を見てひび割れた。
昨夜の求婚の時、我慢すべきと思った。今までのように。貴族の娘にとって家長の決定は絶対なのだから。
けれども。
レナードは私の家に婿入りして男爵位を継いで、父は商売のために、レナードの家はお金のために、皆が何らかの利益を得て満足して幸せになるのに私だけが我慢して不幸になるの?
何故、私だけが不幸にならなければいけないの?
だからレナードの恋人の存在を叫んだ。赤い薔薇は私ではなく恋人の好きな花だと。
可能な限りのお茶会に出て、私の好きな花は水仙だとすでに根回しもしてあったし。
父やレナードの家が政略で私を利用するのだから、私もその政略を利用してやろう、と。
それに父ならば、レナードの失態を私より効果的に使うだろうから。
男爵家の領地は田舎にあって祖父母が守ってくれている。
父は後継であるが家を飛び出し王都で商人になって成功して、母と結婚。その母が私の幼少時に亡くなると私を祖父母に預け、それっきり。なのにレナードと結婚させるために祖父母が反対したのに、2年前に私を無理矢理王都へ連れ出した。
そんな父だもの。
レナードとの破談に父は怒るだろうが、非はレナードにあるのだから、利息をつけて損のないように伯爵家からむしり取ることだろう。
困るのはお金が必要なレナードの家だけ。だからレナードはしぶしぶ謝罪に来ているのだろうけれども。
レナードもお見合いの時のまま完璧な貴公子の演技を続けていれば、こんなことにならなかったのに。
「婚約破棄だなんて君だって貴族の令嬢としてキズモノになって致命的だろう」
レナードの声音が高く鋭くなる。
「王都にいれば、そうでしょう。でも私、田舎の領地に帰りますので大丈夫ですわ」
私の返答にレナードの顔色が怒りと焦燥でどす黒く変色する。圧倒的に自分の不利を覚ったのだ。
私を睨み付けるレナードの目がギリギリと尖っていく。
「伯爵家の俺が謝ってやっているんだ! おまえは素直に従えっ!!」
とうとうレナードは声を荒げて手を振り上げた。
伯爵家は男爵家からの融資がなければ、家が傾いてしまう瀬戸際なのだ。伯爵家の両親から責められてレナードは崖っぷちなのかもしれない、私は振り下ろされる手を見ながら冷静に考えた。
だが、レナードの手よりも護衛の方が速かった。
そして、それよりも私が。
ビュッ、と私のお気に入りの骨が鉄製の扇子がレナードの右肘を痛撃した。
「ひぃっ!」
苦痛と恐怖の悲鳴をあげてレナードは、右手を垂れ下げ尻餅をついた。
男爵家の領地は田舎にあるだけに、獣も多い。
猪とも、狼とも、熊とも、正面から激突して私が勝った。
王都では淑女として毛並みの良い猫のように淑やかにしていたが、領地では近隣に鳴り響く狩人だったのだ。幼なじみとたった二人で狼の大集団と戦闘したこともある。
「弱いわね。本当に犬に吠えられた方がマシなレベルの弱さだわ」
にっこり笑う私に、レナードは信じられないものを見る目でわななく。わかるわ。意見を言ってもレナードが否と言えば従順に従うおとなしい婚約者だったものね、私は。
田舎娘と侮られないために、レナードへの罪悪感もあって、控えめな言動の淑女として慎ましやかにしていたから。
あのねレナード、人を欺くからには終わりまできちんと演じないとダメなのよ。
「連れ帰ってもらえるかしら? それと伯爵様に父が後程訪問をする、とお伝えしてほしいの」
コクコクと何度も首をふって従者は、蒼白なレナードを引きずるようにして部屋から逃げ出そうとした。
音もなく扉が開かれる。外の廊下には父の姿があって。驚愕に目をみはったレナードの顔色は土気色になった。
父が廊下から一部始終を盗み見ていたことに、ようやく気がついたのだろう。
笑顔の父は、レナードと従者を使用人たちに囲ませ、
「奇遇だね。わたしも伯爵に用事があってね、いっしょに行こうか」
と、私を殴りかけた場面を見られてぶるぶる震えているレナードをニコニコしながら連れて行った。
「あー、さっぱり。早く領地に帰ろうっと!」
ぽーん、と机の上にあったチョコレートを一粒空中に放り投げ口を開けて、ぱくん、と食べて私はニンマリ子猫のように笑った。
「レナードから貰ったもので唯一好きだったのはチョコレートだけだったわね」
祖父母に手紙を書いたところ、
「恋をして結婚をする人もいれば、結婚してから愛を育てる人もいる。愛はなくともお互いを尊重しあう夫婦もいるが、配慮すべき相手に配慮せず心配りもしない男は論外。おそらくその男は自覚のない無意識の傲慢だから質が悪い。そんな男はさっさと棄てて帰っておいで」
と祖母は言ってくれて、
「廃嫡をされたくなければ、サフィリアの結婚に口出しを二度とするな、と釘をさした。若いサフィリアには王都の方が良いか、と思ったが……。安心して帰っておいで」
と祖父は言ってくれた。
父親は田舎の男爵家は継ぎたくないが、貴族の家柄は商売上で有利になるため廃嫡は大問題であった。
かくして王都から自由の身となった私は、ウキウキと田舎の領地へと向かったのだった。
水の匂いがした。
私の育った森と川が見えて、私は馬車から身を乗り出した。
山も草木も瑞々しく青々として、森の緑樹が風に響くように葉を揺らして。
木漏れ日が幾つも幾つも降り注ぎ、星を散らしたように地面を光らせ。
川は、岩の表面を滑る流れは空気を取り込み白く儚く泡立つのに、水は川底の石が見えるほど透明で。
変わらない故郷に嬉しくなって私は馬車から飛び降りて、鳥が羽ばたくような音をたてる落ち葉を踏みながら駆け出した。
私の手が、咲き群れる赤の朱の緋の花を散らして。
私の足が、川の浅瀬のさざ波のような流れを乱して。
「あー! 王都の水も美味しかったけど、やっぱりここが一番美味しい!!」
一瞬で淑女から野生児に戻って、うーん、と伸びをする私に、
「サフィリア?」
と呼びかけたのは2年前までいっしょに狩りをして遊んだ、幼なじみのギリアンだった。
「ギリアン? ええ!? 背が凄く高くなっている!」
「2年ぶりなんだから当然だろう。サフィリアだって、熊殺しのサフィとは思えないほど綺麗になっているじゃないか」
「ふふん、王都の水にみがかれたのよ」
太陽みたいな金髪のギリアンは顔よし頭よし腕よしの、お腹真っ黒くろくろの隣の領地の侯爵家の子息だった。
二人で狼の群から村を守って戦ったこともある、戦友でもあった。
「どうしてここに? 狩り?」
久しぶりの再会に喜ぶ私に、
「サフィリアが帰ってくると男爵から教えてもらったから迎えに。それに家は侯爵だよ、王都の情報ならばたいてい集めているよ。ねぇ、サフィリア。僕ね、後悔していたんだ」
とギリアンが苦笑をもらした。
「サフィリアのことは楽しい狩り仲間だと思っていたけど、サフィリアがいなくなって寂しくて。それまではサフィリアのことを女の子と意識したことがなくて、僕にとってサフィリアは頼もしい相棒で。だってサフィリアは【熊殺しのサフィ】なんだもん。でも、でもね、心がちぎれたみたいになって、僕、僕ね、サフィリアに恋をしていたことに気がついたんだ」
「バカだよね。サフィリアをうしなってから自分の心がわかるなんて。だからサフィリア、来年の春月の最初の日に水仙をサフィリアに贈ってもいいかな?」
真剣なギリアンに私はびっくりして声も出ない。ギリアンとは仲良しの幼なじみで。子どもの頃からコロコロと子犬のように走り回ったり時には獰猛な猟犬の如く二人で駆けて。恋愛対象としてなんて見たこともなかった。
「サフィリア、温室を作ったんだ。サフィリアが一年中いちごが食べられるように。チョコレート職人も王都から引き抜いたし、ふわふわのパンを作れるパン職人も」
声が喉で詰まって貼りついている私の手を、ぎゅっ、とギリアンが握る。手が熱い。キュン、と胸の奥が鳴いた。
「侯爵家の両親も説得した。ほら、僕は健康だったけど兄弟は病弱で早世してしまっただろう。残っているのは病弱な長男と末の僕だけ。だから強くてたくましいサフィリアなら、言い方は悪くて申し訳ないが生命力の強い子どもが期待できる、って」
砂糖をまぶしたみたいな甘さを宿した双眸が細められギリアンが微笑む。
「でも、それは言い訳で。僕はサフィリアが好きで、好きだから結婚したくて側にいたくて。ねぇ、僕ではダメ?」
洪水のようなギリアンの告白に、甘い恋愛経験値などない私は真っ赤になってカチンと固まってしまった。溺れてしまいそうな。ギリアンの溶けるように熱い眼差しに、私は全身がまるごと心臓になったかのようになり呼吸が止まりそうだった。
そして私は。
万全の手抜かりなく準備万端整えて待ち構えていた策略家のギリアンに敵うはずもなく。
眩いばかりの日射しが降り注ぐ夏も。
涼風が冷たくなる秋も。
空気が凍てつく冬も。
とろとろに優しいギリアンとともに過ごして。
かすかに花の香りが漂いくる春月の最初の日に。
「サフィリア、愛しているよ」
跪いて水仙の花を両手から溢れるほど捧げてくれたギリアンから、頬を染めて花束を受け取ったのだった。
読んで下さりありがとうございました。