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レオ、とうとうユウトを見付ける

「レオさん、最近ずっと死んだ目をしてますね。ちょっと病み系男前っぽくてごちそうさまですけど、心配です」

「……俺を心配するならとっととチビを見つけ出せ、クソが」


 レオの元々悪い目付きは、ひどいクマと眉間にがっつり寄ったしわでさらに最悪になっていた。

 まあ当然だ。チビの行方が知れなくなって、もう1ヶ月経つのだ。


 基本的な生活を送るためと、最低限のアラヤ社の仕事をこなす程度の知識はインプットしたが、この世界での新生活を安穏と送れる状況ではなかった。

 一応家も借りたものの、ベッドを置いて寝るためだけにしか帰っていない。全てはチビがいないと始まらないのだ。


「……保護施設に連絡しても個人情報が云々言われて中々進まんし、肌の変色について言及すると虐待疑いを掛けられて警戒されるし……。チッ、クソ竜神が、居場所くらい教えてくれればいいものを」

「まあまあ。……それよりここまで見つからないとなると、少しチビさんの捜索条件を変えるべきかと思うのですがいかがでしょう」

「捜索条件を変える?」


 三神の提案に、レオはパソコンモニターに向いていた視線をそちらに向けた。

 見れば、その手には数枚のメモがある。


「他の課の者たちにも打開案を出してもらったのです。その中で加味すべき内容があったので、レオさんに判断して頂きたいのですが」

「話せ」


 このアラヤ社の社員は特殊な変人ばかりだが、それぞれに得意分野があって有能だ。そこから上がってきた案なら聞く価値はある。

 レオが仕事の手を止めて三神の方を向くと、彼女はすぐに話し始めた。


「まず、記憶を失っていたとしても異世界人なら着衣に特徴があるはずだということで、そちらから探ってみてはどうかという案が出ました」

「……チビが着てたのは何の変哲もない綿素材の服だぞ」

「素材はそうでも、縫製は違います。レオさんが鎧の下に着ていたシャツも身頃の裁ち方や縫い合わせの方法が違いました。その特徴を照合すれば、異世界人だと明言しなくても探し当てられる可能性があります」

「……なるほど」


 確かに、これなら然程警戒されることなく確認できる。記憶喪失状態で保護されたのなら、おそらく当時の着衣が処分されていることはないだろうし、判断も容易だ。

 レオが納得して頷くと、三神は次のメモを取り出した。


「それから、これは対魔課のコウシンくんからですが、今の捜索の絶対条件に入っている『肌が薬品で黒く変色している』の項目を外すべきだと言っていました」

「……何? だが、それが一番分かりやすい特徴だぞ」

「コウシンくんによると、その変色の原因となった薬品が魔法薬であった場合、この世界に来た時点で消え去っているのではないかということでした」

「魔法薬……!? そうか、確かにその可能性は高い……!」


 そういえば初めて会った当時、チビは魔法生物研究所で魔法薬の実験台として使われていたのだ。

 だとすればその条件こそが、チビを見付けるネックになっていたのかもしれない。


「後はチビさんに合致する特徴がある記憶喪失の子が見つからないことから、未だ昏睡状態である可能性も考えた方がよいですね。防御課の者が、竜神の加護が掛かっているなら、記憶喪失の多大なストレスからチビさんを護るために眠らされているのではないかと推察していました」


 なるほど、レオもこの世界に来て早々、対応できる三神が来るまでは竜神によって眠らされていた。同じように、チビもレオに発見されるまでは眠らされていても不思議ではない。


「どれも一理あるな……。こうしてはおれん、さっそくそれを加味して再捜索をしなくては」

「まあ、そう言うんじゃないかと思って実は先に探っておきました」

「……何?」


 レオが情報を求めてパソコンに向かおうとすると、すかさず三神がメモを差し出す。

 彼女自身この話が理に適っていると判断していて、事前に対象を絞っていたのだ。全く、仕事が早い。


「見つかったのか……!」

「今の条件を合わせて、レオさんの探すチビさんに合致する特徴の子どもが一人いました。ひと月ほど前に見つかって病院に入れられていたようですが、外傷もなく眠っているだけと判断されて、今は系列の保護施設に身元不明者として移された模様です」

「その施設に連絡は!?」

「一応面会可能かどうか、問い合わせを入れてあります」

「そうか!」


 レオは三神の差し出したメモを受け取った。

 そこには近隣県の住所と施設名が書いてある。公共交通機関を乗り継げば、2時間ほどで着けそうな場所だ。


「面会可能の返事が来たら、俺はすぐに早退してここに向かう」

「はい。すでに社長に車を回してもらう手配をしてあります。さすがに何も分からない子どもを電車バスに乗せるのも心配なので」

「本当に手回しがいいな……。まあ、何にしろ助かる」

「このくらい何と言うことはありません、美形を救うのが私の至上命題……。いつも仏頂面のレオさんが珍しく興奮する姿を見れただけで、この労力も報われるというもの。美形男前万歳」

「……人の顔をガン見すんな、うぜえ」

「心底嫌そうな顔もご褒美です、ありがとうございます」


 ……これさえなければすこぶる有能な頼れる上司なのだが。

 レオはうんざりと大きくため息を吐いた。

 その時。


 三神の社用の携帯端末に、件の保護施設から着信が入った。



**********



 レオが保護施設に入ると、近くで遊んでいた子どもたちが怖がって蜘蛛の子を散らしたように逃げていった。


「レオさん、目付きが悪すぎて子どもが逃げてます」

「知らん。いつものことだからどうでもいい」

「チビちゃんも、記憶がないならレオくんのこと見た途端に逃げ出すか泣き出すかするんじゃないか?」

「いや、まさかそんなことは……ない、と思う。多分……」


 なぜか付き添いで来た荒谷と三神にそう突っ込まれて、少々心配になる。

 他の誰からそんな反応をされても気にもしないが、やっと見付けたチビに初見で怖がられたら、かなり凹んでしまうだろう。

 想像しただけでいささか憂鬱になりながら、レオは前を行く施設の人間の後に続いた。


「そういえばいつもチビさんと呼んでいますが、お名前は?」

「……ユウトだ」


 後ろから三神にチビの名前を訊ねられて、ずっと考えていた名前を口に上せる。


 これは、鎧の下に着ていたシャツの胸ポケットから出てきた、ぼろぼろになったチューリップのお守りから辛うじて読み取れた文字を組み合わせたものだ。

 ここに書いてあったのはチビの真名のはずで、それほど的外れな名前ではないだろうとレオは考えている。


「ユウトくんか。レオくんの弟ということだよな?」

「……そうだ」


 ユウトを引き取るには、肉親であることが一番手っ取り早い。

 それに、元々この子どもを弟にして、どこかで平和に一緒に暮らしたいと思っていたのは確かなのだ。


 どうせこの世界で、自分以外にレオとユウトが他人だと知るものはいない。ならばこのまま本当の兄弟になってしまえばいい。


 そんなことを考えながら施設の中を歩いていると、前を歩いていた案内の者が、ひとつの部屋の前で立ち止まった。

 そのまま中に入るのかと思ったら、おもむろにこちらを振り向いて眉を顰める。それにレオは怪訝な視線を向けた。


「……子どもに何か?」

「……実は、お兄さんがいらっしゃる直前に、面会したいと仰っていた子が目を覚ましたのです」

「ほう」


 レオが来ることを知って、竜神が子どもを眠りから解放したのか。

 だとすれば、ここに居るのは間違いなくチビ……レオの弟になるユウト。

 いやが上にも期待が高まり、つい逸る心で次を急かす。


「それで?」

「皆さんが来る前に素性などを聞いておこうと思ったのですが……どうやら、何も覚えていない様子で」

「……ほう」

「お探しの子だったとしても、お兄さんを見てもご家族だと分からないかも知れません」

「なるほど……」


 当然だが、その辺りは承知している。と言うか、そう仕向けたのが自分なのだから当たり前だ。

 しかしそれを覚られないように、レオは深刻な顔をして見せた。


「そうですか……。だが、それでもずっと探していた弟です。引き取って、記憶が回復するまでサポートしてやりたいと思います」

「……肉親はあなたお一人と聞きましたが、仕事をしながら弟さんの世話をするのは難しいのでは?」

「それは……」


 確かに、記憶喪失の子どもをサポートするには心許ない環境といえるかもしれない。しかし、だからと言って施設に預けっぱなしにする気は毛頭ないのだ。

 ……どう引き取ることを納得させようか。

 そう考えていると、後ろにいた荒谷が割り込んできた。


「失礼、私は彼が勤める会社の社長をしている者です。……彼の弟が記憶を失っているというのなら、今後会社の方でもバックアップをしていきますのでご心配なく。我が社の社員は皆ファミリーのようなものなので」

「そうですね、彼の弟を探す様子を間近で見ていたので、私も上司として何かできることがあるなら、今後も手を貸していくつもりです」

「……なるほど、会社の方の理解が得られているのですね。……分かりました。まずとりあえず、対面してみて下さい」


 会社の後ろ盾のおかげで、どうにか話が進んだ。

 それに安堵して、案内の者がその扉を開けるのをそわそわと待つ。

 どうかここにいるのが、ずっと会いたかった子どもでありますように。


「では、どうぞ」


 言いつつ開け放たれた扉の向こうのベッドの上には、小さな人影があった。枕を背もたれに座った子どもだ。


 彼は、きょとんとした視線をこちらに向けている。その顔に黒い変色やくすみはなく、レオと目が合った途端に軽く首を傾げたその頬の上で、さらさらとした髪が揺れた。

 レオの記憶にある姿でありながら、ちょっと違う。


 まあ、それは置いておいて。


(くっ……かっ……可愛いんだが……!!!!!!!!!!!?)


 レオは内心で身悶える。そこにいたのは紛れもなくユウトだった。

 いや、元々可愛かったが、魔研によって汚染された肌が浄化されたことで、3割増しくらいで可愛く見える。一ヶ月も会えなかったせいで、余計にそう感じるのかもしれない。


 それに、以前の死にたがりだった頃の少し陰のある表情と違い、ひたすら無垢でマジ天使。瞳が宝石みたいにキラキラしてる。

 うん、この子を養っていくためなら、馬車馬のように働こう。これは当然の決意。


「俺の弟です、間違いありません! 他の誰にも譲りません、連れて帰ります!」


 ようやく念願の弟との再会を果たしたレオは、独占欲丸出しで即座にそう大声で宣言したのだった。


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