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三神は美形男前を勝手に救う

 明らかに三神を警戒した男は、身体を動かそうと躍起になっているようだった。

 しかし、やがてどうやっても逃れるのは無理だと判断して、ギッとこちらを睨む。

 悪い目付きがさらに極悪になった。


「くそっ……これは支配かバインド系の魔法か……!? この世界は魔法の概念がない世界だと聞いていたのに……!」

「いえ、私の特殊能力は、魔法というより催眠に近いと思います。簡単に言うと、目を合わせた相手の動きを操ることができるのです。ただ発揮できる力……というか、私のやる気にムラがあって、相手が美形じゃないとここまで完璧に掛からないのですけどね」


 言いつつ、小脇に抱えていたバインダーを開く。

 そこには事前に準備していた確認事項が書いてあるのだ。

 三神は胸ポケットに差してあったボールペンを取り出すと、まずは最初に彼の懸念を取り除くことにした。


「心配しなくても、あなたに危害を加えるわけではありません。っていうか、私美形男前の味方ですから。ただ、あなたがこの世界に来た理由や、今後の身の振り方を話したいだけです」

「そんなもの、どうでも良いだろう! 俺は一刻も早くチビを探しに行かなくてはいけないんだ!」

「そのもうおひとかたも、別の場所で保護されているそうです。ここに祀られている竜神様が加護を与えて下さっているので、身の危険はありません」

「……何? チビは無事なのか……? 本当に……?」


 とりあえず一緒にこの世界に来たもう一人が無事だと知って、男の怒気と焦りが少し引いたようだ。その表情に僅かな安堵が見える。

 しかし安寧にはほど遠く、彼はイライラと訊ねた。


「だがどちらにしろ、すぐに迎えに行ってやらないといかん。チビはどこにいるんだ?」

「それは自力で探さねばなりません。が、あなたが手当たり次第に一人で探すよりも、私どもが手を貸した方がずっと早く効率的に見つかるはずです。そのためにもまずは事情を聞かせて頂けませんか。……まあ、拒否ればずっと私に操られたままなので、話すしか道はありませんが」

「チッ……クソが」


 舌打ちと共に悪態を吐かれたが問題ない。

 三神は口汚い美形も大好物である。分が悪いからとおもねってきたりしないところもポイントが高い。強気のワイルド系男前良き。


「それならとっとと話とやらを終えて俺を解放しろ」

「話が早くて助かります」


 どうやら冷静になれば合理的な判断ができるタイプのようだ。

 ならばだいぶやりやすい。

 自分の身ではなくもう一人の方を心配していることも、説得に使えそうだ。


「ではまず、あなたのお名前をお聞きしても?」

「俺は、アレオ……レオだ」

「レオさんですね」


 どうやら本名ではなさそうだが、まあこれはどうでもいい。便宜上の呼び名が必要なだけで、彼が前の世界で何者だったかなんて三神たちには関係ないからだ。


「この世界には竜族によって送り込まれたようですが、どのような目的で?」

「……チビの命を守れる場所として飛ばしてもらっただけだ。目的らしい目的があるわけじゃない。……ただ二人で普通に暮らせれば、それでいいと思っている」

「なるほど。ではこちらの世界で暮らしたいのですね?」


 この世界に美形男前が増える。それは良い、大歓迎だ。

 三神はバインダーのメモ欄に『定住希望』と書いて花丸を付けた。


「この世界についての知識は?」

「……魔法の概念がない世界だということしか知らん」

「じゃあ、文化や主要とするエネルギーが全く違って困惑するでしょうね。当然貨幣価値も違うし……。おそらくひとりで街中に出るのも無謀です」

「異世界で暮らすのが大変なのは承知の上だ。それでも俺はチビを養っていい生活をさせてやると決めている。……ここは魔物はいないのか? 討伐クエストでも受けられれば、すぐに大金を稼げるだろう」

「残念ながらこの世界には、魔物もいなければクエストもありません。おそらくあなたが元いた世界と比べてずっと平和なのです」


 世界が違えば仕事内容も稼ぎの出し方も違う。ここは身体一つでどうにかなる場所ではないのだ。

 定住を考えるなら日本の常識を学ぶことは必須。

 そして相手が美形なら、そのフォローをするのはやぶさかでない三神である。


「ここは……平和な世界なのか? 魔法もなく、魔物もいない……」

「ええ。ですから、あなたの言うチビさんが危険にさらされているようなことはありません。……それよりも、今後ここに定住するつもりならそちらの方が問題です」


 チビの無事を再び念押しして、本題に入る。

 それに対して、レオが片眉を上げた。


「……金か?」

「もちろん金銭の問題もありますが、部屋を借りるには戸籍による身分の証明が必要ですし、保証人も要ります。家賃を払うために職も持たねばなりません。そして職に就くにはこの日本の常識も必要です。デスクワークをするならパソコン知識も必須。スマホも使いこなしたいですね」

「戸籍による身分の証明に、保証人……!? パソコン、スマホ……?」


 金さえあればどうにかなると考えていたらしい彼は、ひどく困惑している。

 だがこれは脅しではなく本当のことだ。


「家を借りるだけでも手続きが複雑なのか……俺はその日暮らしの野宿でも何でも平気だが、チビにそんなことはさせられん……! どうにかしないと……!」


 もしもレオが野宿していたら自分がすかさず拾って帰るが、今はそういう話ではない。

 苦悩する彼に、三神はこれが好機とばかりに提案した。おそらく社長が自分を指名してここに来させたのは、これが目的なのだから。


「ではチビさんを探す間、私どもの会社に来てはいかがです? その間に常識を学び、戸籍を作って部屋を借りて、職にも就いておけば、安心してチビさんを引き取れます」

「た、確かにそれは一理あるが……。だが、なぜ異世界から来たばかりの俺にそんな提案を? あんたらの利になることなんて何もないだろうに」

「は? 美形男前を助けることに何の理由が必要ですか?」

「……うん?」


 至極真面目に三神が返した言葉に、レオが何言ってんだコイツという顔をしている。

 もしかして男前の自覚がないのか。滾るんだが。


「私は顔の良い男を己の好き勝手に救うためにこの能力を与えられた(と思っている)女……。悪いようにはしません。というか、美形は愛でることしかしません。とりあえずついてきて下さい」


 バインダーを閉じて三神が立ち上がると、目の前のレオも立ち上がる。

 もちろん彼はこちらのいうことを聞いたわけではなく、勝手に身体が動いたのだ。


「っ、おい! 操るのやめろ!」

「素直に私に救われについてくるのでしたらやめます」


 そう言った三神に、レオは大きく舌打ちした。

 しかし、直後に渋々といった様子で頷く。


「チッ……。まあ、チビを探すにもここで生きるにも他に伝手はないからな……。仕方ない、とりあえずあんたについていく」

「良い判断です」


 おそらくレオは自分一人だったら他人の手など借りないタイプに違いないが、もう一人のチビという存在のために自身のプライドに折り合いをつけたのだろう。

 その存在に感謝をしつつ、三神は社の出口に向かった。


「では行きますか。……剣と鎧が目立つからタクシーは無理ですね。社長に連絡して、誰かに車を回してもらいましょう」

「たくしー……? 車……馬車のことか?」

「残念ながらこの日本で馬車はほとんど走っていません。……そうですね、ここを出たら逐一ご説明していきましょう」


 きっとこの扉を開けたら、彼は外の世界に大きなカルチャーショックを受けるだろう。

 その反応を内心で楽しみにしながら、三神は竜神の社の扉を開け放った。


次話からレオ視点です。

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