帰還
街へ帰り、ギルドの受付でクエスト達成の確認を行う。
「なにー⁉︎ 新種のスライムと相談なしに戦ってきたー⁉︎」
アンジェリーナの怒号が飛び、ギルド中がその声に驚き、静かになった。そして全員が受付の方を見る。
「ご、ごめんなさいって。倒せたんだからいいじゃないっすか」
新種のモンスターが出た場合は、無理に戦わずに即座に退避し、ギルドに報告するのが基本的な冒険者のルールだ。
新種の魔物は、たとえ亜種であっても、行動パターンや危険度が異なるので、絶対に勝手に戦ってはいけない、とされている。
今までそれで何百人もの冒険者が帰らぬ人となっているのだ。
「全く君ってやつは! 倒せたからいいものの、今回は君だってボロボロじゃないか! 彼女が亜種のスライムに効く薬品を持っていたから、よかったものの、それがなかったら君も死んでいたんだぞ!」
アンジェリーナは、腰に手を当てて、怖い形相でこちらを睨んでいる。この人はほんとお母さんみたいだな。
「でもあの時はああするしかなかったんですよ。セリーナもいたから、このままじゃ逃げ切ることは難しいという判断で。もちろんギ酸でも無理だったらなんとか退避する方法を考えましたよ」
「ギ酸? ギ酸って何よ……? とにかくね、今後新種の魔物を見つけた時は、必ずギルドに報告してね! 絶対よ!」
「は、はい。わかりました」
もちろんそれは状況による。他に犠牲が出ない俺だけしかいない状況だったらそうするさ。……いや、倒せそうだったらまた勝手にやっちゃう可能性はあるけどな。
「じゃあこれ報酬ね」
「はい。ありがとうございます」
「……あり……がと……なのら……」
俺とセリーナは報酬を受け取り、酒場へ向かうことにした。
「……謝らなくて……いいのら……? 怒られていた……けれど……」
セリーナが心配そうな声で聞いてきた。
「ん? ああ。大丈夫だよ。あの人、よく癇癪を起こすから……」
「おい! ゼノア! 聞こえてんぞ!」
後ろからものすごい怒鳴り声がした。しまった。声が大きかったか。
「……やべっ。すいませーん!」
と言いながら、ギルドを出た。
◆ ◆ ◆
「ったく。あの子は。あれだけ危ないって言ってるのに……」
アンジェリーナは、言うことを聞かない少年冒険者に対し、はぁっとため息をついた。
「アンジー、まあまあ、そこまで怒らなくてもいいんじゃない? 彼も少女を守るために尽力したんだからさ」
ゼノアたちを見送るアンジェリーナの隣に、紫色の長髪を靡かせた女性がやってきた。同僚のロゼッタだ。
「ロゼ。いやー、でもあれは早死にしちゃうよ……。あんな無理な生き方は冒険者としての寿命を縮めてる」
「アンジーは、あの子のこといつも心配してるわね。ぞっこんなのねぇ〜」
「そんなんじゃないってば! いつも言ってるでしょ? あの子みたいな生き急いでる冒険者は早く死ぬ。今までそういう人を見てきたんだから……」
アンジーは、受付台の上に置いた手を握りしめ、歯を食いしばった。
「そうね。あなたも元は冒険者だったものね。そう言う冒険者をたくさん見てきたのね……」
「……」
アンジーは無言で答えた。
「……死なないでよ、ゼノアくん……」