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スライム・スレイヤー仮  作者: 蒼上ソラ
16/26

VSスライム亜種1

王都の門から出て歩くこと1時間。今は森の中を歩いている。

王都から一番近い森林地帯だ。ここには、多数の植物が生えているため、それを餌とする魔物が多く生息している。

「ここら辺か」

討伐依頼書に記載されていたスライムの目撃場所の近くまで来たが、まだスライムの姿は見当たらない。

あたりを見渡すと、ここに魔物が住んでいるとは思えないほど、静かでのどかな森の姿があった。あたりは緑の木々で覆われ、50センチほどの高さまで草が生えていた。このままでは、全長30センチほどしかないスライムがいたとしても、居場所を掴むことができない。

「どこだ……?」

とターゲットを探していると、

「……キャー!」

左の方向から女の子と思われる声がしたのが聞こえ、そちらに向かって走り出す。距離的にそう遠くない。100メートルもない距離だ。きっとスライムに襲われた女の子の声だろう。

「間に合え!」

草木をかきわけ、声のした場所にたどり着くと、そこは凄惨な状況だった。

木々や草が生えていたところから少しひらけ、茶色い地面が剥き出しになり、広場のようになっている。そこに、栗色のボサボサの髪をした1人の少女が涙を流しながら座り込んでおり、その目の前には楕円形の球体。

ここ数年毎日毎日狩り続けてきたお馴染みの復讐相手だ。

一気に頭の戦闘スイッチがカチッと入り、怒りのボルテージが盛り上がる。

栗色の髪の少女は黒いローブを着用しており、人間の背丈くらいありそうな長い杖を地面に突き立てて、それに縋るように体重を預けた体勢で、地面に膝をつけていた。その表情にはこれ以上ない「恐怖」の2文字が表れており、顔は今にも貧血で倒れそうなほど血の気が引いて青ざめている。ふと脳裏にニーナの怯えた表情が蘇った。スライムに食われる直前の顔だ。思い出したくもない、今すぐに消し去りたいおぞましい記憶。首を横にブンブンと振り、状況を冷静に把握するため、あたりを改めて見渡す。少女の周りには血が至る所に飛び散り、人間だった肉片があちらこちらに転がっていた。彼女のパーティーメンバーだったものだろう。その数は3人。2人は腹を貫かれ、その周りに血が滲んでおり、それが地面にも流れている。その2人は髪の短さから男であると推察でき、鉄の鎧を身につけていたようだが、スライムの斬撃能力の前には役に立たず、そのまま貫かれたのだろう。どちらも剣を持っていたようだが、それも折られて、転がっている。もう1人は女性のようだ。肩まで茶色の髪の毛がかかっている遺体が転がっており、こちらの状態はさらに悲惨な状況だ。腰から下半分の肉体がなくなっている。上半身の位置から右を見渡すと、数メートル離れた位置に、人間の下半身と思われる物体が無造作に転がっていた。服装のつなぎ目を見比べると、その女性の身につけていたものと完全に一致するため、彼女のものであることは間違いないだろう。

あまりにも燦々たる状況だが、スライムを討伐に向かった未熟な冒険者の中では、1人でもまだ生存している状況であれば、まだ被害はマシと言える。


「大丈夫か!」


1人生き残った少女に声をかけるが、ほんの数十秒前に起こったのであろう悲劇にまだ脳がついてきていないのか、反応が鈍い。


「……あ……あ……」


取り残された一人の少女は体の丈ほどもある長い杖を前に構えているが、全身が恐怖で震えており、腰が抜けて地面にへたり込んでいる。


「……た、たす……助けて……」


少女はすっかり青ざめて真っ白になった顔をこちらにゆっくりと向けて、なんとか言葉を絞り出した。

危なかった。あと数秒遅かったら、この子もスライムにやられていただろう。

そしてあと3秒も経てば、あの危険な魔物はすぐに手を出してくる。その言葉に応じている暇はない。


「あとは俺に任せろ!」


ゼノアが少女とスライムの間に割って入り、奴が少女に攻撃を加えても防げるように見計らう。

球体型の敵は、緑色の体表をしたスライム。俺が何体も何体も殺してきた奴らと同じ部類だ。

しかし、俺は妙な違和感を感じた。目の前のスライムには、今まで倒してきた個体と少し異なる部分がある。

体表の左側に、小さくだが、火傷をしたようなあざがある。

「こんな模様のあるスライムは初めて見た」

そう思う俺だが、スライムはすぐに反撃をしてきた。つい先程人を貫いたばかりの体の一部、剣のような形に保った己の体の部分に大量の血がこびりついている。その腕らしきものを今度はゼノアたちごと切ろうと、振り回してきた。

それをゼノアがレイピアで受け止め、弾き返す。これがスライムとは思えないほどに意外と重い一撃だ。

スライムは弾き返された『腕』をすぐさまもう一度右から斜めに振り下ろして、重い攻撃を与える。レイピアを構えて上手く当て、弾き飛ばされないようにする。

スライムの討伐には慣れてきたゼノアだが、とは言っても初級モンスターを相手にする時のように、無傷で余裕で倒すことはなかなかできない。腐ってもやはりA級モンスター。対してこちらはまだC級の冒険者。2階級も上の魔物を相手にしていると言うことなのだから、普通は倒せなくて当然だ。

今の実力でも1体倒すのに最低5分はかかる。連続した素早い攻撃がくるため、それを見切ったあと、少し攻撃を休む隙ができるため、その瞬間に奴等の弱点である『酸』をぶちまけ、消滅させるのだ。

その攻撃が止むまでは受けないように防御に徹しなければならない。

魔物は基本的に攻撃にいくつかのパターンがあり、それを繰り返し行う習性がある。日本でやっていたバトルゲームと同じだ。そして、それはこのスライムにも当てはまる。

スライムが使う攻撃は自分の体の一部を剣のようにして切る攻撃と、そして小さい弾を作り出してそれを打ち出す技、それも通じなかった場合に繰り出す突進だ。

スライムのどこにそんな筋力があるんだと思うが、奴らの突進はまともに食らうと5メートルは吹っ飛ばされる威力を誇る。

そしてそこで隙ができると、切られて即お陀仏だ。だから受けるわけにはいかない。

だが、突進も避けるか受け流すと、奴も自分の持つ攻撃パターンを全て繰り出したのに倒せなかったからか、少し怯む。その時に攻撃の手が止まるのだ。

その一瞬の瞬間に、酸の攻撃で仕留める。これがゼノアが生み出した必勝法だ。

さっき切る攻撃が来てそれを防いだ。次はゼノアの予想通り、弾を打つ技を放ってきた。ここまでも予想通り。

さあ、次の突進を受け流せば、俺の勝ち……!


しかしその瞬間、ゼノアの目の前にいたはずのスライムが何かに遮られた。

先程助けた少女ではないか。

恐怖ですくんでいた足を振り絞り、杖すらも持たずに、スライムの前に立ちはだかって手を大きく横に広げている。


「おい! バカやろう! なんで出てきた! 死ぬぞ!」


予想もしていない出来事が起こり、ゼノアもパニックになった。


「……や、やめて……ください……なのら……」


その言葉はスライムに対して言っているのか?

魔物に対して言葉が通じるわけがない。


「そこをどくんだ! スライムに殺されるぞ!」


ゼノアも焦って口調を荒くするが、目の前の少女は退こうとしない。

このままではまずい、スライムの突進が来て、少女がやられてしまう……!


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