コンテンツ48―グロビア氏、マットに託す
グロビア氏の工房。テーブルで向き合い座っているグロビア氏とマット。側にはいつものコーヒーカップ。
言い出しにくそうに口を開くグロビア氏。
「マット。君はもう独立してやっていけるメカニックだ。今回ケイドの製作で良く分かった。引く図面もよく練られた計画性が見られた。おかげで手直しには手間が掛かっていなかった。」
「ロワートさん、俺はまだまだです。作業も甘い。」
「それを今回で痛感したろう。今後に活かす事だ。そこで、君の独立を祝して、この工房を譲ろうと思う。今まで頑張った報酬でもある。受け取ってくれるな?」
「ロワートさん。それではロワートさんの工房が無くなってしまう。」
「実はな。シューロンに工房を持とうと思う。」
「シューロンへ⁉︎行くあてはあるんですか?」
「これも君に黙っていた事だが、次回のメカニック博士号にノミネートされた。シューロンに移っても、ノミネートされた栄誉だけで仕事は舞い込む。私の事は心配無い。」
「ノミネート……。お、おめでとうございますロワートさん。」
「いやいや、単にノミネートさ。……で、ここの主として活動してくれるのかな?」
「も、もちろんです。こんな事なら、ロワートさんの設計図は保存すべきでした。……今まで尊い物を失ってきた気持ちです。」
「いいかいマット。私がよく話すだろう?設計図は今だけの物。いつまでも過去の設計図を参考にするな!それを超える設計図で作り上げる事が物作りの理想なんだよ。……これは君が将来持つであろう弟子にも伝えて欲しいものだな。」
「や、約束します。ロワートさんのその言葉を胸に、今後もメカニックを……この工房でメカニックを続けます。」
「手助けは出来なくなるが、相談には乗れる。いつでも連絡しなさい。シューロンの連絡先が決まったらジェイドに知らせるよ。ケイドのスピードコンテストの結果を見てシューロンに移転する。エントリーは済ませたから、ルイスとガルシアに伝える様頼む。明日辺り、コンテストの案内データがルイスに届くだろう。」
「分かりました。ロワートさんの設計に恥じない航行が出来ると信じてます。ルイスやガルシアは今時珍しいマニュアル操縦が出来る。今回のコンテストは半数はオート航行の参加者でしょう。あの2人のチームなら入賞間違い無しですよ。」
「彼女達のプレッシャーになるかと思い伝えなかったが、私は間違いなく名が売れると思っている。今回の結果次第では、ノアーナの歴史に残る事実になるかも知れんよ。」
「ええ、もちろんです。他の参加者のシステムはアップデートされたものでしょう。ですがケイドは全て最新。しかもあのAIユニットと同期してコントロールされていれば、あとはルイスの操縦を信じるのみです。」
「うむ。私はそれが楽しみなんだ。フローターの操縦の仕方を見たからこそケイドのコクピットの設計が出来たというもの。……おぉ、いかん。移転挨拶に出掛けてくる。」
そう言って工房を出て、ドックの奥のフローターに向かうグロビア氏。
マットはグロビア氏のその背中を見て、今まで教わった事を一生忘れまいと誓うのだった。




