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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

籠の中の地獄

作者: 江保場狂壱

 オホホホホ……、わたくし30年近く動物愛護団体を立ち上げておりますの。有名な女子大学を卒業してすぐでございましたわ。それからズット会長を続けておりますの。エエ、毎日骨身を削って働いておりましたわね。


 わたくし幼少時から動物を愛でておりましたの。実家が農家で山羊や鶏、兎を飼っておりましたわね。よく餌をやっておりましたわ。あの頃は幼いながらも充実した日々を過ごしたと思います。


 でもわたくし肉を食べるのは嫌いでした。だってお父様は家畜達の首を撥ね、内臓を取り出すことに嫌悪感を抱いておりましたの。包丁でブッツリと切断された鶏の首から、トマトケチャップの様に血がトプトプとあふれ出し、周りに鉄の臭いが充満する事に吐き気を覚えましたわ。


 だって同じ神様から戴いた命なのに、人間だけが一方的に息の根を止めるなどあり得ない話でございましょ?

 でも殺人犯が死刑になるのは大賛成ですわ。ダッテ人殺しを生かしても何の得にもならないですわね。百害あって一利なしですし、税金のムダ遣いですものね。

 

 え、森や山に棲む狐などの獣は草食動物を狩って食している。人間だけを悪役にするのは間違っているですって?


 そんな事はございませんわ。自然の動物達はとても美しく、命を輝かせておりますのよ。人間と違って面白半分で狩りをしたり、狭い檻の中で乳を搾り、卵を産ませるなどありえませんわね。


 そうそう、わたくしは今入院中でございますの。実は一寸ちょっと騒動を起こしまして、無理矢理入院させられたのでございますわ。

 夫と娘がおりますが、何故か夫は鬼の様な形相で奇妙な紙を突き出しましたわね。娘は顔がボロボロに腫れており、わたくしの方を全く見向きもしませんでしたわね。反抗期なのかしらん。


 ちなみに夫は一流企業に勤めておりますわ。わたくしとは大学時代からの付き合いですの。娘は名門女子学校に通っておりますわね。わたくしは専業主婦として活躍してましたわ。崇高なる使命があるのに汗水垂らして働くなど蛮族のやる事ですもの。 


 何故わたくしが入院したのか、その説明を致しましょう。

 事の発端はとある研究所への抗議でございました。製薬会社でテレビコマーシャルをジャンジャン流している大きな会社でございますわ。よく聞く殺鼠剤を売り出しておりますのよ。昔風なら石見銀山ねずみ捕りでございますわね。


 そこではねずみを実験と称して虐待しているのでございますのよ。ねずみにクスリを打って、生きたまま解剖するというおぞましい行為をしておりますのよ。動物を愛するわたくしにとって看破などできるはずございませんわ。


 施設の代表者は「動物実験は医学の発展にどうしても必要なものです。第一、ねずみが可哀そうなどというが、世の中は家ねずみを害獣とし、毒入りの餌を喰わせて殺しているではないか。ワレワレとどう違うのか説明してイタダキタイ。そもそも従業員の生活はどうなるのだ」などと屁理屈を申しましたのよ。


 もうわたくしの頭は怒りで沸騰し掛けましたわね。ちなみにわたくしは動物を殺す薬など認めませんわ。家を這い回るねずみも、布団に潜むダニも愛おしい生き物達ですわ。夫とはその事で口論することがありますが、最後はわたくしが勝ちますの。ここ最近は夫は全くわたくしと会話したことはございませんわね。


 それに人間の生活などどうでもいいですわ。だって人間はウジャウジャ蛆虫のように湧いておりますもの。人間より動物の安全の方が大事です。人間など毒を流し、動物を面白半分で殺しますもの。そいつらがどうなろうがこちらの知ったことではございませんものね……。

 ちなみにわたくしの家は裕福で生活には困りませんのよ。貧乏人は将来のことを考えろと言い訳ばかりしてウンザリしますわね。オホホホホ……。


 わたくし達は連日研究所の前で抗議活動を行いましたわね。動物を殺すな、動物の権利を剥奪するなとね。それはもう毎日昼夜問わず叫び続けておりましたわ。

 その内、会員の人が仕事と家事で忙しいから参加しないと告げました。わたくしは他の会員と一緒にその不届き者を制裁いたしましたわ。だって崇高なるわたくし達の活動に理解を示さないなどあり得ないお話ですものね。

 その方はノイローゼになり、首を括って亡くなりましたわ。ホホホホホ……。


 わたくしはもう熱心に活動しておりました。それなのに同胞は次々と辞めていきますのよ。制裁をしたくても会員の方々がどんどん居なくなってしまいますの。イッタイどういうわけなのかしらん。

 新しく会員を探しても仕事が忙しいと言って断る人が多いのです。こうしている間にも可愛い動物達が実験で殺されるというのに、フザケタ話ですわ。


 ある日、わたくしは強硬手段に出ましたの。研究所の所長の自宅に放火をしましたのよ。

 まずは草木も眠る丑三つ時に所長の自宅に行きました。扉をシッカリと針金で施錠し逃げられないようにしたのです。


 そして裏口に火を付けてやりました。丁度強風が吹いており、火はあっという間に初潮の自宅を炎に包みましたわね。

 中から泣き叫ぶ声が聴こえましたが、トテモ心地良い声でございましたわ。だって重罪人共が紅蓮の炎で焼き殺されるなど、溜飲が下りますもの。

 

 明け方まで炎は燃えておりましたわね。所長を含め、妻と子供3人、両親も含めて、7人が焼け死にました。わたくしの正義が遂行されて心が晴れ晴れとなりましたわね。


 ナゼカわたくしは警察に逮捕されました。罪状は放火殺人という、実に意味不明な罪状です。わたくしは正義の鉄槌を下したのですよ、何故わたくしが逮捕されるのか理解できません。


 夫と娘は面会に来てくれましたが、何故か怒っておりました。「お前のせいで俺は会社をクビになった。娘も学校で苛めを受けて辞めてしまったぞ。近所では蛇に変化して安珍を焼き殺した清姫きよひめの再来だの、殺人鬼の家族だと後ろ指を指され、石つぶてを投げられた。お前なんか死ンデシマエ……」と慰めてくれました。感動の涙が流れましたわ。

 アア、家族は良いものですね。わたくしの無罪を微塵も疑っていないのですから。


 ところでわたくしの両親はお見舞いに来てくれませんでした。夫の話では両親は家を売り払い、病院に入院したそうです。なんでも近所の人たちから嫌がらせを受けたそうですわ。

 全くなんという人たちなのでしょう。人としてどうかと思いますね。


 夫の話では「お前のせいでわしらの老後は滅茶苦茶だ。周りからは鬼女紅葉の親だと口汚く罵られているのだ。お前なんか勘当だ、畜生地獄へ堕ちてしまえ」と伝言してくれたそうです。

 それを聞いてわたくしの心は温かくなりました。両親が我が子を親身に心配してくれる気持ちが嬉しいのです。

 この歳になっても両親の有難みは骨身に染みますね。


 裁判ではわたくしの無罪が確定致しました。精神衰弱でとても責任を取れないとの事です。

 裁判官の方々もわたくしの崇高な行いに共感し、無罪を言い渡してくれたのです。感涙致しましたわね。

 傍聴席にいる方たちは「罪人は死ね」「気狂い女は豚と交わえ」などわたくしを褒めたたえてくれました。

 ああ、皆がわたくしの無罪を信じ抜いてくれたことに、感謝しております。


 それからわたくしは身体を癒すために病院に入院しました。個室で便所も付いております。窓には不審者除けに鉄格子が填められており、とっても安心できます。

 毎日、お医者様が来て、わたくしとお話をした後、おクスリをくださるのです。大変親切な方々にわたくしの毎日は充実しておりますわ。


 ソウソウ、前にわたくしの主催する団体の会員が来て、「団体は解散した。警察から女盗賊の鈴鹿御前の如きテロ集団と指名されたのだ。アンタのせいで我々は犯罪者の仲間扱いだ、仕事はクビになり、家族には逃げられ、家を追い出されたのだ。訴えてやる」と慰めてくれました。

 皆、わたくしが退院することを深く願っており、神様に感謝のお祈りをしておりますの。

 トテモ感謝し切れませんわ。


 前にお医者様にココにねずみはおりますかとタズねました。もしいたとしても処分するなんてカワイソウですわよね。そしたらお医者様はねずみなどいないヨと答えてくれました。

 病院なのだからねずみがスんだら不衛生ダカラネと笑っておりましたね。後ろのカンゴフさん達も釣られてワラってました。「例えここから出られたとしても、他人から罵声を浴びて、蹴りを入れられるのにね。巌窟王の様に絶海の孤島のような、籠の中で一生を過ごせたら幸せなのにサ。ケケケ」とわたくしのコウショウな精神にキョウカンしたようでございます。


 ソレを聞いてアンドしました。どんな生き物もコロてはいけません。ダッテ命は皆ビョウドウですもの。命を奪うケンリなど誰にもございませんワ。


 サテ本日のオヒルは鳥の唐揚げです。キノウは豚のカツレツでしたので、とてもダイマンゾクですわ。

 では頂きマショウ。


 ……ムシャムシャ。ウメェェェ、鳥の唐揚げ、スゴク、ウメェェェエエエエエエ……。

 ありま氷炎様の春節企画で書きました。

 夢野久作っぽく書いてみましたが、いかがでしょうか。

 今回は胸糞悪い展開を目指してみました。

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