姫様はご立腹で
姫様と侍女
食事はおわり、手紙が姫様の元へ
姫様はすこしご立腹の様子で部屋へ戻る
身のこなしは優美、しかし足音には憤りがかすかに混じる
"近衛騎士と姫"という身分関係があるとはいえ、
気心の知れた間柄である、と姫様は思っていた。
それゆえ、何も告げることなく発つというのは
いったい如何なる理由があろうか
王には暇乞いをしたという
王女付きの近衛騎士として側にあろうとも
仕えりしはやはり王であった
憤りとわずかな憂いが、気持ちを乱れさせていた。
「まったく、ロドアスもひどいわね。
一言くらい声を掛けてくれたらよかったのに。
私は、休暇を与えないほど冷淡な王女だとでも思われてるのかしら」
姫様は白い頬を赤く染めて、むくれている
そして部屋へ戻るなり、侍女に手紙が届いているかと訊ねる
「ええ、今朝方にフリード様が届けてくださいましたね。 ロドアス様からと、」
姫様は急かすように手を出す
ねだるこどものような仕草をするとは珍しいが、
侍女にはなぜ姫様が不機嫌なのかわからない
「姫様、どうしてそのように怒っていらっしゃるのでしょうか」
手紙を渡された姫様は、己の態度に気付き恥じる
「ごめんなさい、ソフィー。 すこし落ち着きます」
姫様は深く息をつき、侍女へ事を伝える
「この手紙はね、ロドアスの"休暇"の暇文なのよ。
私にもなにも言わずに国を発ったそうなのよ」
その言葉を聞いた侍女は驚く
「まあ!本当ですか。別れの挨拶もなく、――困った方ですね」
「本当に、しょうがないわね、
一月ほどで戻るようなのよ、戻ってきたらたっぷりと嫌味をお見舞いしてさしあげるわ」
侍女は姫様の様子を見て思う
――ロドアス様も別れが寂しかったのでしょう
おふたりとも手堅くも闊達な方々ですのに互いのこととなると
気遣いが過ぎるところがありますからね
姫様に心配させぬようという心遣いだと、侍女は推測する
姫様はご立腹のようだが、手紙に触れる手からは傷つけぬようと
繊細で慈愛に満ちた所作がみえる。
その手で手紙を検めようとする姫様に気付き、侍女ははっとする。
「ああ、姫様。
そのお手紙は姫様以外には秘めるようにと仰せでした」
「あら、どうしてかしら。
見ても差し支えないと思うのだけれど・・・
――まあそれなら、ソフィー、下がっていいわ」
侍女は部屋を去る
姫様はひとり
燭台の灯りに近づく
燭台の灯りは姫様をも照らす、黄金色の髪を薄赤く染めている
手紙を封から取り出す
――封を閉じていないのに、内密になんて
2枚の用箋が折りたたまれていた。
その手紙を、姫様はことさら丁寧にひらいていった。
次は姫様と近衛騎士の手紙